2030年冬季五輪・パラリンピックの会場候補地、大倉山ジャンプ競技場を視察し、取材に応じる秋元克広札幌市長(左)ら=2022年7月、札幌市
2030年冬季五輪・パラリンピックの会場候補地、大倉山ジャンプ競技場を視察し、取材に応じる秋元克広札幌市長(左)ら=2022年7月、札幌市

 札幌市が招致を目指す2030年冬季五輪の開催地選びが不自然な動きを見せている。昨年に発覚した東京五輪の汚職事件や談合疑惑が背景にあるようだ。五輪運動全体への信頼が揺らいでいる。国際オリンピック委員会(IOC)は説明責任を果たした上で、より透明性の高い選定手順を踏む必要がある。

 IOCは、札幌市が最有力とされていた30年冬季五輪開催地を今年秋の総会で正式決定する予定だった。ところが東京五輪のスポンサー選定を巡る汚職事件が摘発され、さらにテスト大会業務の入札談合疑惑に捜査のメスが入ると、開催地決定を来年以降に延期した。

 先送りの理由は表向き、気候変動対策などへの協議のためとされた。確かに温暖化は将来の冬季大会存続に関わる問題ではある。しかし30年大会に向けた喫緊の課題ではなかろう。IOCの説明は説得力を欠いている。

 IOCは1年延期した東京五輪を、なお新型コロナウイルスがまん延しているさなかに無観客での強行開催を押しつけて批判された。大会後の相次ぐ不祥事発覚は五輪イメージをさらに傷つけた。30年冬季五輪の決定延期は逆風を避けるための時間稼ぎではないのか。

 そんなIOCに歩調を合わせるように、札幌市も招致を盛り上げる「機運醸成活動」を当面、休止するとした。IOCや日本オリンピック委員会(JOC)と相談したうえでの判断だ。五輪への批判が渦巻く中でのプロモーション活動は反発を招きかねない、という消極策での一時停止だ。

 30年大会の開催地争いは事実上、ともに2度目を目指す札幌市とソルトレークシティー(米国)の一騎打ちの様相だ。ただソルトレークシティーは「次の34年大会の方がより望ましい」との意向を示している。

 多くの都市が招致に名乗りを上げる夏季大会とは対照的に、近年、冬季大会の招致熱は冷え込んでいる。そうした事情もあって、IOCには30年札幌市、34年ソルトレークシティーを一括して同時決定するもくろみもあるようだ。無難に2大会の開催都市を選定するためにも、時期を選びたいのだろう。

 IOC、札幌市とも、東京五輪スキャンダルのほとぼりがさめるのを待つ策をとった。こそくな持久工作と非難したい。

 IOCやJOCが今、取り組むべきは、不祥事の検証と再発防止の指針づくりに指導力を発揮することである。IOCは開催済みの大会には見向きもせず、将来の果実確保に躍起だ。JOCの主体性は全く見えない。

 会計検査院が調べた東京五輪・パラリンピックの大会経費は、組織委員会の最終報告より約2割増の1兆6989億円で、国の関連経費を合わせた総額は約3兆6800億円に膨らんだ。冬季大会は夏季大会より規模が小さいが、札幌大会が実現すれば経費がかさむのは避けられまい。巨額の公金が投入される五輪だ。招致の進め方に曖昧さがあってはならない。

 札幌招致の弱点は市民の支持率の低さだ。昨年3月の住民アンケートでは「賛成」「どちらかといえば賛成」が約52%で、かろうじて過半数に達した。札幌市は意向調査を全国に拡大して実施するという。招致反対が多数になるリスクもはらむ調査だけに、ここでもその手法、透明性確保が課題となる。