安倍元首相銃撃事件があった近鉄大和西大寺駅前の現場付近を調べる捜査員ら=2022年7月8日、奈良市
安倍元首相銃撃事件があった近鉄大和西大寺駅前の現場付近を調べる捜査員ら=2022年7月8日、奈良市

 安倍晋三元首相銃撃事件で、奈良地検は殺人罪などで山上徹也容疑者を起訴した。世界平和統一家庭連合(旧統一教会)への恨みから参院選の街頭演説中に安倍氏を手製の銃で襲うという常軌を逸した犯行だが、半年近くに及んだ精神鑑定を踏まえ、事件当時に心神喪失などの状態にあったとは認められず、刑事責任を問えると判断した。

 山上被告の供述などによると、1991年ごろ旧統一教会に入信した母親が多額の献金を繰り返し、2002年に自己破産。献金額は総額約1億円に上り、家庭が崩壊した。一時は教団トップに復讐(ふくしゅう)することも考えたが果たせず、教団との関わりが深かったとされる岸信介元首相の孫である安倍氏を狙ったという。

 凶行に至る詳細な経緯の解明は法廷に舞台を移す。だが事件をきっかけに次々と発覚した自民党議員らと教団との接点を巡り世論が求める解明は放置されたままだ。安倍氏は教団の友好団体にビデオメッセージを寄せたことがあるが、岸田文雄首相は「本人が亡くなり確認に限界がある」と、動こうとしない。

 自民党は地方議員も含め教団との関係を絶つと力説する。しかし個別の接点について調べることはしない。国民の納得は得られないだろう。頬かむりは許されない。政治に教団がどのように浸透したかなどを第三者による本格調査で、つまびらかにする必要がある。

 旧統一教会は1954年に韓国で創設され、日本では64年に宗教法人が設立された。80年代には先祖供養などを名目に高額な美術品や宝石を売りつける霊感商法が社会問題化。一方で、68年設立の政治団体「国際勝共連合」を通じ、岸元首相ら保守勢力を中心に政治との関係を築いてきた。

 やがて国会議員、地方議員を問わず選挙に関わり、名簿の提供やチラシ配布、電話かけなどをこなし、関係を深めた。

 2018年6月には全国霊感商法対策弁護士連絡会が、教団や友好・関連団体の集会、式典に出席したり、祝電を打ったりしないよう政治家に求める声明を出し「政治家のお墨付きは反社会的な活動を容易にするため悪用される」と訴えた。

 自民党が昨年9月にまとめた調査では、党所属国会議員379人中180人に教団側と何らかの接点があり、うち会合出席などを認めた125人の氏名が公表された。だが自己申告で「お手盛り」との批判が根強い。安倍氏は対象外だった。

 また共同通信が全国の都道府県議や知事、政令指定都市市長を対象としたアンケートでは、議員334人が教団側と接点を持ったと回答。自民党が8割以上を占めた。知事13人、市長9人も関係を認め、教団側が地方政治にも浸透している実態が浮き彫りになった。

 事件後、山上被告のように信者を親に持つ「宗教2世」が声を上げ、高額献金による困窮や虐待などの被害がクローズアップされた。そうした問題が長らく顧みられず、対策が後手に回ったことに政治と教団側の関係がどのように影響したかも検証する必要がある。

 今年初め、不当な寄付勧誘を規制する被害者救済法が施行された。解散命令請求を視野に宗教法人法に基づく文化庁の質問権行使も進むが、政治と教団側との腐れ縁を徹底して掘り起こさない限り、国民の疑念や不信を拭うことはできない。