首脳会談を前にバイデン米大統領(右)の出迎えを受ける岸田首相=13日、ワシントンのホワイトハウス(共同)
首脳会談を前にバイデン米大統領(右)の出迎えを受ける岸田首相=13日、ワシントンのホワイトハウス(共同)

 岸田文雄首相は米ワシントンでバイデン大統領と会談し、昨年12月に改定した「国家安全保障戦略」で保有を打ち出した反撃能力(敵基地攻撃能力)の効果的な運用での協力など日米同盟を一層深化させる方針で一致した。宇宙空間や半導体などの重要技術に関する経済安保、サプライチェーン(供給網)の強靱化(きょうじんか)でも協力を確認、日米の一体化をさらに進める会談となった。

 両首脳が発表した共同声明は、日米両国を「民主主義的な二大経済大国」と位置付けるとともに、中国と北朝鮮、ロシアを名指しして「力による一方的な現状変更の試みに反対する」と表明、対抗姿勢を強く打ち出した。

 首脳会談に先立つ外務・防衛担当閣僚による安全保障協議委員会(2プラス2)の共同発表では、中国を「インド太平洋地域と国際社会の最大の戦略的挑戦」と指摘し、日米は「戦略的競争の新たな時代に勝利する」としている。

 中国の軍拡が地域の懸念材料になっているのは確かだ。しかし、米国と一体化し、勝ち負けを前面に打ち出すのは、国際社会をブロック化し、分断を深刻化させかねないものだ。

 経済的なつながりも含めて考えれば、日米で「利益」が異なることもあり得る。日本として一定の抑止力は維持しながらも、緊張緩和に向けた対話外交の主体的努力を尽くすべきだ。

 首脳会談と2プラス2で明確になったのは、米軍の戦略下で自衛隊が活動するという構図だ。他国の領域内を直接攻撃できる反撃能力に関して、岸田首相は首脳会談で米国製巡航ミサイル「トマホーク」の導入を伝達。2プラス2では事態対処に関し、日米で「効果的な指揮・統制関係を検討する」と踏み込んだ。

 反撃能力を現実に発動させるには、米国の情報に依存するのが実態となろう。米国が「矛」として打撃力を持ち、日本は専守防衛の「盾」に徹するという日米同盟の役割分担は変質し、日本も「矛」の一環を担うことになる。戦後安保政策の重大な転換と言える。

 一方、米軍は沖縄の海兵隊を改編し、離島防衛の「海兵沿岸連隊」創設を表明。自衛隊も南西諸島へのミサイル配備を進めている。台湾や尖閣諸島での有事を念頭に、南西諸島を「最前線」に置く動きと言える。「沖縄の負担軽減」に逆行すると言わざるを得ない。

 両首脳の共同声明は「台湾海峡の平和と安定の重要性」を強調した。中国に行動を起こさせない戦略が必要だ。台湾有事で日本が反撃能力を使えば、日本も攻撃対象となる。その現実が国民に伝わっているだろうか。

 岸田政権は昨年12月の臨時国会閉会後に反撃能力の保有など防衛力の抜本強化を閣議決定し、今年の通常国会で議論が行われる前に訪米して米国に説明、バイデン大統領に「称賛」された。しかし、国会での論議を抜きに、米国との間で既成事実化する手法は、国内軽視と言うしかない。

 首相は訪米に先立ってフランス、イタリア、英国、カナダ各国も訪問。先進7カ国(G7)議長国として連携を確認した。ただ各国との首脳会談でもウクライナ情勢を受けて軍事面での協力を打ち出すことが柱になった。G7には国際社会の分断を乗り越え、協調を進める責務があることを再確認すべきだ。