介護保険の制度改正に反対する集会に参加したヘルパーや家族ら=2022年11月18日午後、国会
介護保険の制度改正に反対する集会に参加したヘルパーや家族ら=2022年11月18日午後、国会

 2024年度に予定される3年に1度の介護保険制度改正に向けた給付と負担の見直しが停滞している。介護サービス利用時の自己負担や65歳以上の高所得者の保険料をそれぞれ引き上げる案の判断を、政府は今夏まで先送りした。本来なら昨年末に決着させるべきだった。

 政府は75歳以上の後期高齢者医療制度に関し中高所得者の保険料を24年度から段階的に引き上げると先行して決めている。医療、介護の負担増を立て続けに打ち出せば国民の強い反発を招くと懸念したとみられる。

 昨年末には、防衛費増額のため法人税などを「24年以降の適切な時期」から増税すると決めた。介護の負担増論議は後回しにした形だ。結論を今夏としたのは、4月の統一地方選への影響を避ける狙いもある。

 しかし介護保険制度創設から22年間で介護サービス利用者は3・5倍に増え、総費用は13兆円超まで膨らんだ。高齢者人口がピークを迎え、85歳以上の割合が大きくなる40年ごろまで見渡せば、介護給付のさらなる増加は避けられない。一方、支え手である15~64歳の生産年齢人口は急減する。

 介護保険制度を安定的に未来へ引き継ぐには、これ以上の判断先送りは許されない。個別の生活実態に配慮して一律を避けたきめ細かな対応が必要だが、高齢者にも経済力に応じ負担増を求めることはやむを得まい。

 たとえ国民に不評な内容であっても、それが必要ならば、十分に納得してもらえるまで説明を尽くし、将来世代にツケを回さない責任ある決定をするのが政府の務めだ。

 65歳以上の高齢者は介護サービス利用時に費用の原則1割を自己負担している。高所得を理由に2割や3割となる人もいるが、90%余の人は1割負担だ。これまでの議論では2割負担の対象者を増やす案が出ている。

 65歳以上が支払う介護保険料は市町村ごとに決められ、21~23年度で全国平均6014円と、制度創設時から2倍超に増えている。このうち高所得者について保険料引き上げが検討されてきた。

 自己負担と保険料について政府は、いずれも今夏の経済財政運営の指針「骨太方針」決定までに、実施するかどうかを判断するとし、今後も議論を継続することにした。

 ただ医療と比べ、いったんサービスを受け始めると、より長期間、継続的に利用することになるのが介護だ。そのため自己負担割合の引き上げは高齢者世帯の家計への影響が大きい。「利用を我慢するようになり、状態の悪化につながる」という懸念解消にも政府は手を尽くすべきだ。

 「ケアプラン」(介護計画)作成の有料化案もサービス利用をためらわせる恐れがあり、24年度改正からは外れた。要介護1、2の人が使う訪問介護のうち、掃除など生活援助サービスの事業主体を国から地方へ移す案も、同様に25年以降に再び議論することになった。

 状態が比較的軽度であっても、介護サービスを大きな支えとしてきた当事者やその家族にとって、制度改正が従来の生活に負の変化をもたらすことがないよう、政府は慎重に検討してほしい。

 岸田文雄首相は今夏に子ども予算倍増の道筋も示すと言う。この財源でも消費税増税を含む負担増論議が始まった。首相には重い決断の夏となる。