短歌 安部歌子選

冬空の夕焼け雲が映り込む黒い牝牛の眼は赤く濡れ        松 江 新井 千慧

 【評】牛舎にいる牛か野に放たれている牛か。夕焼け雲を映している牝牛の眼に作者は注目した。映り込む、眼は赤く濡れなどの観察は鋭い。下句は作者の発見。

嗚呼これは亡母が再び使うため束ねておいた荷作りの紐      出 雲 原田 和紀

 【評】母が再び使うことのなかった紐。嗚呼これはと一瞬込み上げてきた思いがそのまま素直な一首になった。荷作りの紐の結句に作者の母への思いが込めら...