厳しさを増す安全保障環境を理由に、政府が鹿児島県から沖縄県にかけての南西諸島の防衛力強化を進める中、現地で自衛隊の重大な事故が発生した。
沖縄県・宮古島で隊員10人が搭乗した陸上自衛隊のヘリコプターが、基地を離陸して約10分後にレーダーから消失、消息を絶った。周辺海域で、搭載装備と確認された折り畳まれた状態の救命用ボートや「陸上自衛隊」と書かれたドア、回転翼の一部などが次々に見つかり、陸自は航空機事故と断定した。
南西諸島では今後も自衛隊の増強が続き、一層の活動活発化も予想される。必然的に事故の可能性は高まり、地元住民らが巻き込まれる惨事に発展する恐れも否定できない。陸自が直ちに事故調査委員会を設置し、同型ヘリの飛行停止を決めたのは当然のことだ。
離陸からわずか10分の間に陸自ヘリに何が起きたのか。政府は、搭乗していた隊員の発見・救助に全力を挙げるとともに、徹底した原因究明を急ぎ、有効な再発防止策を講じなければならない。
事故を起こしたのは、熊本県に拠点を置く陸自第8師団所属の多用途ヘリ「UH60JA」で、パイロットと整備士が各2人、隊員6人が搭乗していた。
上空から地形などを確認するため、6日午後3時45分ごろ、航空自衛隊宮古島分屯基地を離陸。約1時間20分かけ同島をほぼ1周して戻る予定だったが、約10分後に島の北西の洋上で行方不明になった。
それまでは、ほぼ予定通りのルートを飛行。当時の天候に問題はなく、視界も10キロ以上ある良好な状態だった。機体は3月下旬、50時間以上飛行した後に行う「特別点検」を受けたばかりだったという。
第8師団は通常は熊本、宮崎、鹿児島の南九州3県の防衛・警備を担当するが、有事には沖縄方面に派遣される部隊という位置付けだ。
搭乗者には、3月末に着任したばかりの師団長も含まれていた。師団ヘリによる飛行は、師団長が着任後の早い時期に、上空から現地の状況を確認する目的だったのではないか。
こうした経緯の詳細などについても、防衛省は情報を開示し、地元自治体などにきちんと説明すべきだ。
台湾や尖閣諸島を巡る情勢などから、中国を念頭に置いた南西諸島における近年の自衛隊の体制強化は著しい。
政府は2016年、日本最西端の与那国島(沖縄県)に駐屯地を開設。19年には奄美大島(鹿児島県)と宮古島、今年3月には石垣島(沖縄県)にも新たに駐屯地を開設した。
昨年12月に改定された安全保障関連3文書には、南西諸島の防衛強化が明記されており、部隊の増強は今後、さらに続く計画だ。
一部には長射程ミサイルの配備も、取り沙汰されている。有事の際には、こうした駐屯地が相手国の攻撃対象となり、地域住民が巻き込まれる懸念が出ている。
さらに今回の事故である。住民や自治体の不安は拭いがたいだろう。
中国の海洋進出などに伴い、南西諸島方面での米軍の活動も活発化していることが予想される。沖縄県は周辺に住宅地が密集する普天間飛行場を抱えている。政府は米軍にも、改めて安全最優先を申し入れてもらいたい。