ウクライナの次は台湾、という懸念を現実のものにしてはならない。
台湾の蔡英文総統(民主進歩党)が中米外遊の帰途、米ロサンゼルスでマッカーシー下院議長(共和党)と会談した。台湾を「自国の一部」とみなし、一切の外交活動に反対する中国は、米政界で正副大統領に次ぐナンバー3との会談に「米台関係の実質的な格上げ」と反発した。中国軍は対抗措置として台湾周辺での軍事演習を始めたが、地域の緊張を高める軍事的活動は自制すべきだ。
両氏は自由と民主主義を守るため、米台連携の強化を確認した。米台の緊密化は、台湾の武力統一をちらつかせる中国自身の行動が引き金となっていることを、中国は理解しなければならない。中国は度々「平和と安定を破壊している」と民進党を批判するが、中国が軍を動かさない限り軍事的緊張は高まらない。米台には先に武力行使する意図は全くない。
同じ時期に台湾最大野党で対中融和路線をとる国民党の馬英九前総統は訪中し、中国との安定した関係を誇示した。
台湾では来年1月に総統選があり、二大政党の対決となる。台湾の土着政党、民進党に肩入れする米国と、中国由来の国民党を支援する中国が影響力を競い合う構図でもある。1996年の総統選では、前年に李登輝総統(当時)が訪米したことに中国が反発してミサイル演習を実施。米軍が台湾海峡に空母を派遣して緊迫した。同様の事態を招かないよう米台にも慎重な対応が求められる。
昨年8月にペロシ前米下院議長(民主党)が訪台した際は、中国は猛反発し、台湾周辺海域にミサイルを撃ち込んだ。マッカーシー氏も訪台を望んだが、中国への刺激を避けるため、蔡氏が外遊途上での会談を提案したとされる。抑制的な蔡氏の対応は評価に値する。
中国は今年に入って停止していた一部の台湾産農水産品輸入を再開し、指導者が武力統一への言及を控えるなどソフト路線を取り始め、これを多くの台湾人が歓迎している。軍事的威嚇は台湾の反感を買うだけだ。
蔡氏の外遊直前に、中国は中米ホンジュラスと外交関係を樹立、同国と台湾を断交させて国際的な孤立化を進めた。対照的に、訪中した馬氏への厚遇は総統選へ向けて台湾世論の分断をはかる思惑が明らかだ。
蔡氏外遊中の3月末、米国は民主主義サミットを開き、日本や台湾も参加した。「グローバルサウス」と呼ばれる途上国・新興国を民主主義陣営に取り込む目的だが、こうした国々は大国の中国やロシアとうまく付き合わねばならない現実もあり、新たな分断を生みかねない。初めてサミットに招かれたホンジュラスは台湾と断交した。米国は「民主主義と専制主義」という単純な線引きで結束がはかれるのか、再考してほしい。
ロシアのウクライナ侵攻で米国が派兵しなかったことから、台湾では米国が台湾有事に助けないとの「疑米論」が広がる。「米国は外交カードに利用しているだけ」と台湾人に映れば親中派の勢いが増す。中国も情報操作による「認知戦」を仕掛けて疑米論を拡散、米台の分断を狙っている。
米国も来年、大統領選を控える。米国は党利党略に振り回されずに民主主義を守る立場から、超党派で台湾に誠意ある支援を続けるべきだ。