島根県知事選の開票作業を始める松江市の職員ら=9日午後9時、松江市学園南1丁目の市総合体育館
島根県知事選の開票作業を始める松江市の職員ら=9日午後9時、松江市学園南1丁目の市総合体育館

 9日投開票の島根、鳥取両県知事選は、再選を期した島根の丸山達也氏(53)、県政史上最多の5選に挑んだ鳥取の平井伸治氏(61)が前評判通りに勝利した。新型コロナウイルスの感染拡大防止に留意しつつ、人口減少対策といった従来の難題克服に向け、ギアを上げる時だ。

 医療福祉サービスの維持、産業振興や教育の充実など、あらゆる分野で少子高齢化の時代を生き抜くための対策が待ったなしである。

 選挙期間中、丸山、平井両氏は全方位で県の積極的な関与を訴えた。中でも2027年春までの4年間、目に見える成果を求めてほしい地域課題は、社会を持続可能にするために重要といわれている20、30代が、「山陰」というフィールドで自己実現し、充実した人生を送るための土台固めだ。

 この年齢層の社会動態を見ると、両県とも、大学や専門学校などの新卒者が一定割合を占める20~24歳の県外流出に歯止めをかける必要があることは、自明の理である。

 島根県は近年、県内高校と大学の連携を強化した。就職や定住を意識した個々のキャリア形成を支援。県内高校から県内外の大学、短大などへ進んだ人の県内就職率(2020年度)は約37%、県内の大学、高専を卒業した人の同就職率は約33%にとどまっており、厳しい現状の打破に乗りだした。

 「高大連携」は鳥取県も重視しており、互いに情報を交換してノウハウを共有しながら、島根県内の大学が鳥取県内の高校へアプローチ、あるいは逆の動きもしてほしい。ゆくゆくは両県の生徒や学生が、互いの隣県での就職も視野に入れる流れができないだろうか。

 そして、何よりも大事なのが将来を模索する若者の受け皿となる事業所の維持である。

 民間信用調査会社の帝国データバンクによると、22年の企業休廃業・解散件数は島根が前年比10件増の340件、鳥取が同3件減の210件だった。島根は過去5年で最多となり、コロナ禍の克服と事業承継の困難さを表した数字と言える。

 コロナ禍のこの3年間、法的整理や休廃業には至らないまでも、行政や金融機関の資金繰り支援によって何とか収支均衡で持ちこたえている中小、零細企業は少なくない。

 島根県は今年に入って、近年のエネルギー価格高騰の影響なども踏まえた「収益力改善伴走支援型」の中小企業制度融資を設けた。融資期間は10年以内で据え置き期間5年を含み、経済界からは「勝負の5年」という声も聞こえる。コロナ禍からの立ち直りの時期に、飲食、観光や製造業などの経営者に、本業に集中してもらうのが狙いだ。

 県庁や、産業振興に携わる県の出資団体は、資金的な支援制度や技術開発に関する知見を持っている。縦割りの思考でこれを腐らせてはならない。個別企業の経営事情など情報を持つ信用保証協会、金融機関や、人脈がある各地の商工団体と不断に連携し、組織横断で持てる力を出し尽くしてほしい。

 丸山、平井両氏は共に、現場主義や県民目線を政治信念としている。自らが率先して実践するとともに、職員が県民の声を聞き、ためらいなく現場に赴くように仕向けてほしい。両氏が従来発揮してきた情報発信力に加え、モチベーターとしての組織運営力のさらなる向上にも期待したい。