「見たことのない虫をつかまえた」。3月末、Sデジ編集部に読者から連絡が入った。送られてきた写真を見ると、黒い胴で長い触覚がある。カミキリムシのように見えるが、見慣れない模様だ。果たして新種なのか。専門家に聞いてみた。(Sデジ編集部・鹿島波子)
編集部に情報を寄せてくれたのは、安来市田頼町の原田稔さん(76)。朝散歩に出た際、傘立てに付いた虫が目に入った。日ごろ家庭菜園をする中で、イチジクに付くカミキリムシはよく見掛けていたが、5~6月が多い。3月中に見るのは珍しく見た目も異なっていた。

昆虫の研究も行っているホシザキ野生生物研究所(出雲市園町)に写真を送り、調べてもらった。昆虫担当の林成多研究員の答えは「シイタケ原木の害虫です」。新種への期待は、一気にしぼんだ。とはいえ、害虫であればこのまま放置はできない。さらに詳しく聞いてみた。
虫の正式名称は「ハラアカコブカミキリ」。日本全国に800種いるカミキリムシの一つで、体長15~30ミリ。羽の付け根に一対のコブがあり、腹面に赤い斑点があるのが特徴だ。もともと日本では長崎・対馬にのみ生息し、材木を通じて九州、本州へと拡大。島根県では1990年に初めて西端の吉賀町で確認され、20年ほどかけて島根県西部で広がり、その後東へと拡大。今回は、県東端の安来市で見つかった。

人間には厄介な存在だ。伐採して間もないシイタケ原木に産卵し、ふ化した幼虫が原木の樹皮下、材部表面を食べる。原木がえぐられ、育つシイタケの数を減らしてしまう。対策は、殺虫性のあるシート状のボーベリア・ブロンニアティ製剤を原木に設置したり、ネットで被覆したりすることが有効という。島根県中山間地域研究センター(飯南町)の実験では気温13度以上で活動を始めるという結果が出ており、ちょうど今の時期に対策を施すことがベストのようだ。
原田さんに結果を伝えると「珍しい虫じゃなかったか」と残念そうだったが、原田さんの家でもシイタケ原木を育てていた。原田さんの祖父の代から自家用で育てており、注意しながらも、今後も栽培を続けていくようだ。