昆虫総選挙 開催中
昆虫総選挙 開催中

 カブトムシやチョウといった昆虫20種の写真を展示し、来場者にお気に入りを選んでもらう「昆虫総選挙」が、米子市彦名新田の米子水鳥公園で実施されている。毎年、鳥類の人気選挙はしているが、昆虫総選挙は初めて。統括指導員の桐原佳介(けいすけ)さん(48)に、個性豊かな昆虫たちを紹介してもらった。(Sデジ編集部・宍道香穂)

▷それぞれの個性をカード風に表現

 総選挙にエントリーしている昆虫は、カブト虫やトンボ、チョウ、カナブン、シャクトリ虫など全20種。園内で生息が確認された約900種からスタッフが選んだ。自然豊かな湿地に生息する生物の多様性を知ってもらおうと、種類に偏りが出ないよう選んだという。

米子水鳥公園で統括指導員を務める桐原佳介さん

 親子連れが楽しみながら昆虫を学べるよう、展示では虫のカラー写真と虫の特性をトレーディングカード風に表現した。力強さを「体力」、体に備えた角や針、毒で外敵に対抗する力を「攻撃力」、硬い体や擬態能力で敵から身を守る力を「防御力」として数値化している。桐原さんは「写真を見て、好みの見た目の虫に投票しても良いし、力の数値の高さやバランスの良さを参考にしながら選ぶのも楽しいと思います」と話した。投票は28日までで、3月上旬に結果を発表する。投票方法はこちら

 900種もの昆虫から選ばれた20種の昆虫。それぞれどんな特徴を持っているのか、教えてもらった。

▷虫取りで人気のカブトムシ、弱点は…?
 「昆虫界の王様」と称されるカブトムシや、力強い顎を持つクワガタは、昆虫採集をする子どもたちの間で人気が高い。夏休みに森林へ出掛け、樹液に集まるカブトムシやクワガタを捕まえた経験がある人も多いだろう。力持ちで、頑丈な角や顎を持っているため、体力や攻撃力が高い。

 体が硬いため防御力も高そうだが、足が遅いため、敵から素早く逃げることができない。樹液に群がるほかの昆虫を追い払うことはできても、人間や鳥にはすぐに捕まってしまうのが、カブトムシやクワガタのかわいらしい部分だ。

 カブトムシ 体力200 攻撃力150 防御力195
 ノコギリクワガタ 体力150 攻撃力150 防御力210

「昆虫の王様」と称されるカブトムシ
クワガタとカブトムシは、体力、攻撃力、防御力のバランスが良い

▷優れた「擬態」で身を守る
 昆虫の中には擬態に優れているものが多い。木や枝、葉などと同化することで、外敵から見つかりにくくなり、身を守ることができる。

 例えばガの一種である「アゲハモドキ」は「ジャコウアゲハ」というチョウに良く似た姿をしている。ジャコウアゲハの体には鳥が苦手とする毒が含まれていて、鳥に食べられにくい。アゲハモドキは毒を持っていないが、ジャコウアゲハに擬態することで、外敵である鳥から狙われにくくなる。「ジャコウアゲハがまずいと知っている鳥にとっては、とても有効な擬態」(桐原さん)。ほかの虫になりすますことで身を守っているアゲハモドキはけなげだが、したたかでもある。

 アゲハモドキ 体力30 攻撃力3 防御力170

毒を持つ「ジャコウアゲハ」に似た姿の「アゲハモドキ」

 カメムシの一種「キイロサシガメ」も、毒を持つ「ミイデラゴミムシ」に擬態して身を守っている。ミイデラゴミムシは攻撃されると、おなかで毒ガスを作って敵に噴射する。キイロサシガメはガスを噴射することはできないが、ミイデラゴミムシの毒ガス攻撃を知っている外敵にとっては襲いにくい虫なのだろう。

 キイロサシガメはその名の通り、敵に攻撃されると鋭い針のような口で相手を刺す。「攻撃されなければ刺してくることはありませんが、職員が園内で作業中に触ってしまったことがあり、刺されて痛かったと聞いた」(桐原さん)とのこと。鋭い武器を持ちながら、有毒な虫に擬態して身を守る。防御に特化した、用心深さナンバーワンの虫だ。

 キイロサシガメ 体力50 攻撃力100 防御力175
 ミイデラゴミムシ 体力50 攻撃力80 防御力200

ガスを噴射する「ミイデラゴミムシ」に擬態している「キイロサシガメ」
「キイロサシガメ」に姿をまねされている「ミイデラゴミムシ」も総選挙にエントリー

 ガの一種「トビモンオオエダシャク」の幼虫は、木の枝に擬態する。エダシャクは擬態能力が高く、昆虫に詳しい桐原さんでも見つけるのが難しいという。体の色が枝と良く似た茶色であるほか、頭についた二つの突起が枝の新芽のように見えることで、ますます枝と一体化して見える。よく見ると確かに、突起が二つ、頭の部分についている。まるで猫耳のようでかわいらしい。

 エダシャクはツバキの木などに生息し、枝についた葉を食べることで体臭も植物に近づけている。嗅覚が鋭いアリですら、エダシャクの存在に気づかないことも多いという。見た目と匂いのセットで擬態するエダシャクは、昆虫界随一の変装名人だ。

 トビモンオオエダシャク 体力30 攻撃力10 防御力175

木の枝に擬態する「トビモンオオエダシャク」。猫耳のような突起がかわいらしい。

▷美しい羽や色とりどりの体、ハートマークも
 見た目が美しい虫も見逃せない。トンボの一種「チョウトンボ」は名前の通り、チョウのような華やかな羽を持っている。多くのトンボの羽は透明だが、チョウトンボの羽根は光沢のある青色。光が当たるとオーロラのようにきらめく。葉や枝に止まっている様子はもちろん、美しい羽根をひらひらと動かして舞う姿も美しいとのこと。

 チョウトンボ 体力30 攻撃力50 防御力170

メタリックな羽が美しい「チョウトンボ」

 個体により体の色が異なるのが、カナブンやナミテントウ。カナブンには青や緑、赤などのものがいる。ナミテントウはオレンジ色や黒など色が異なるほか、斑点の大きさや数も個体によってさまざま。「同じ種類でもいろいろな色のものがいて、コレクションのしがいがありそう」(桐原さん)。同じ種類でもそれぞれにデザインが異なる。カラフルな虫たちの写真を眺めていると、「みんな違ってみんないい」と励まされているようで、元気が出る。

 カナブン 体力80 攻撃力50 防御力210
 ナミテントウ 体力20 攻撃力30 防御力140

カラーバリエーションが豊富な「カナブン」
個体により色合いや模様がさまざまな「ナミテントウ」

 カメムシの一種「エサキモンキツノカメムシ」も、模様が特徴的な虫だ。茶色の背中の中心に、黄色のハート型の模様がある。背中にハートマークを背負った様子がかわいらしく、人気の昆虫の一つという。
 昆虫の多くは卵を産んだ後、世話をすることなくその場を離れるが、エサキモンキツノカメムシの雌は、産んだ卵を守る習性がある。アリやクモといった天敵に襲われそうになると身をていして卵を守るという。背中に背負ったハートマークと愛情の深さが特徴で、温かい気持ちになる昆虫だ。

 エサキモンキツノカメムシ 体力30 攻撃力20 防御力140

背中のハートマークが目印の「エサキモンキツノカメムシ」

 桐原さんは「昆虫の魅力の一つは多様性」と解説する。自然界で生き抜くために昆虫たちが身に着けた個性について、「圧倒的な力があるものが一番優れているという訳ではなく、あくまで生存が一番の目的。どの昆虫も磨き抜かれた技の持ち主」と、魅力を教えてくれた。

▷上位12種をカレンダーに
 桐原さんは「園内では鳥だけではなく、昆虫や哺乳類、草木も観察できます。多様な生き物、植物が関わり合って生きていると知ってもらうためにも、今後も数年に1回ほどのペースで昆虫総選挙を行えたら」と話した。

総選挙にエントリーしている昆虫を紹介する桐原さん

 毎年、総選挙で上位12種にランクインした鳥の写真で月めくりカレンダーを制作、販売していて、昨年の「鳥の正面顔総選挙」ではイワツバメやコハクチョウ、エナガなど、かわいらしい鳥たちの正面顔がカレンダーになった。今年は上位12種の昆虫の写真でカレンダーを制作する予定という。毎月カレンダーをめくるのが楽しみになりそう。

 桐原さんは「春になると昆虫が活動を始め、園内でも至る所で姿を見ることができます。さまざまな昆虫の姿や特徴を知っておくと、春からの観察がより楽しくなるのでは」とこれからの季節の楽しみ方を案内した。秋から冬にかけては冬鳥を、春や夏には昆虫を見ることができ、1年を通してさまざまな生き物の観察を楽しめるという。

ネイチャーセンター内の水鳥観察ブース。天気が良い日は、中海の奥に大山が見える。

 米子水鳥公園の開館時間は午前9時~午後5時半。火曜休館。水鳥観察ブースがある「ネイチャーセンター」への入館料は310円、中学生以下無料。