ハンバーガーの自動販売機を管理する田村武士さん=島根県海士町福井
ハンバーガーの自動販売機を管理する田村武士さん=島根県海士町福井
ハンバーガーの自動販売機を管理する田村武士さん=島根県海士町福井

 「ないものはない」に風穴をあける-。コンビニエンスストアがない島根県海士町で24時間営業のファストフードが登場し話題となっている。「ハンバーガーを食べたい」という少年時代に覚えた思いを実現するため、地元経営者が一計を案じた。今では島留学生や、高齢者にも喜ばれる存在になっている。

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 町の菱浦港近くの民家や商店の並ぶ一角に「ハンバーガー」の文字が現れた。クリーム色と水色に塗装され、異彩を放つが本土では見慣れたハンバーガーショップではなく自動販売機。ハンバーガーやワッフルなど8種類を販売している。

 設置したのは、隣接するスナックと設備会社を経営する田村武士さん(45)。「この島にはファストフードがなく、食べたくて仕方がなかった」と小学生の頃、ハンバーガーやフランクフルトを食べるため、船で西ノ島町や隠岐の島町まで出かけていた。

 町内には、島留学や短期就業体験で都会から移住者が増加。自分と同じように渇望感が生まれているのではないかと、自動販売機の設置を思い付いた。「夜間に食べ物を販売すると便利になる」読みもあった。

 インターネットで調べると、長野県の企業がハンバーガーの自販機を展開していることが分かり、中古の販売機2台を購入。昨夏にトラックで地元まで運んだ。ハンバーガーは同じ企業から冷凍で仕入れ、自販機で冷蔵状態で保存。冷蔵状態で出てきた商品を利用者がすぐに熱々で食べられるよう、近くに電子レンジも設置し、今年1月から「営業」を始めた。

 ほどなく、自販機をスマートフォンで撮影して交流サイト(SNS)に投稿する人が続き、これを目当てに来島するマニアまで現れ「夜に商品を詰め、朝起きたら売り切れていた」と狙いが当たった。

 都会のような便利なものがないことを逆手に取り、開き直った「ないものはない」のキャッチフレーズで注目された同町。風穴をあけた自販機は、移住者だけでなく高齢の島民の利用も多く、田村さんは「町を明るくする相乗効果を得たい」と意気込む。

 (鎌田剛)