事件があった現場付近を規制する警察官=25日午後6時55分、長野県中野市
事件があった現場付近を規制する警察官=25日午後6時55分、長野県中野市

 長野県中野市で男が女性を刺し、通報で駆け付けた警察官に猟銃を発砲した。その後、現場近くの市議会議長宅に立てこもり、警察に身柄を確保されたが、女性と警察官2人、もう1人の女性の計4人が死亡した。男は議長の長男で、31歳。警察官1人に対する殺人容疑で逮捕された。県公安委員会から猟銃などの所持許可を受けていた。

 一つの事件で複数の警察官が殉職したのは、1990年に沖縄県で暴力団抗争の警戒に当たっていた2人が組員と間違われて撃たれ、死亡した事件以来。男はパトカーの運転席に近づき、猟銃を発射したとされる。急行した警察官がいきなり銃撃されるなど、誰も想像できなかっただろう。

 日本の銃規制は世界一厳しいとも言われる。ただ2007年12月に長崎県佐世保市のスポーツクラブで2人が亡くなり、6人が重軽傷を負った乱射事件や、22年1月に埼玉県ふじみ野市で訪問診療先を訪れた医師が射殺された事件など、公安委員会が所持を許可した猟銃による凶行は後を絶たず、そのたびに体感治安は悪化するばかりだ。

 銃刀法を改正するなどして規制は強化されてきたが、惨劇はまた起きてしまった。動機や犯行の経緯などについて解明を進めるのはもとより、なぜ防げなかったのか、現行の規制に穴はないのかを徹底的に検証し、法改正も含めて対策を尽くすことが求められよう。

 事件発生は25日夕。「男が女性を刺した」と110番があった。容疑者の男は現場に到着した警察官に発砲し、両親らと同居する自宅に立てこもった。約12時間後に県警による説得に応じ、両手を上げて屋外に出たところで身柄を確保された。この間、周辺は避難区域になり、住民らは市立中学校に避難した。

 男は県公安委員会から猟銃や空気銃など計4丁の所持を許可され、谷公一国家公安委員長は「手続きに問題があったとの報告は現時点では受けていない」としている。

 銃刀法は散弾銃やライフル銃などの猟銃や空気銃の所持を原則として禁止。狩猟や有害鳥獣の駆除、標的射撃を目的とする場合に限り、住所地の公安委員会に申請、許可を受けて所持できる。地元警察署による銃の取り扱いに関する講座や筆記・実技試験があり、許可の取得に数カ月かかることが多い。近所の人への聞き込みも行われる。

 また精神障害やアルコール依存症、公共の安全を害する恐れなど「欠格事項」について、銃刀法は細かく定めている。警察庁によると、21年末時点で許可を受けた猟銃は15万3千丁あった。

 これほど厳しい規制をかけても、凶行を封じ込めるのは難しい。佐世保の乱射事件を受けて、申請時に医師の診断書添付を義務付けるように銃刀法が改正されたが、ふじみ野市の事件を起こした男はその2年前に猟銃所持の許可を更新した際、診断書を提出。欠格事由はないとされていた。

 今回の事件で逮捕された男について、近所の人は「家にこもりがち」などと話すが、危うさは感じていなかったようだ。

 所持を許可された個人が銃を管理するのではなく、警察や射撃場、業界団体などがまとめて管理して使用時に渡す、あるいは、銃は本人の手元に置いていても、実包は射撃場や団体などが管理するといった仕組みも検討する必要があるだろう。