会合の参加者と交流するデサンティス氏(左)=13日、米アイオワ州シーダーラピッズ(共同)
会合の参加者と交流するデサンティス氏(左)=13日、米アイオワ州シーダーラピッズ(共同)

 2024年11月の米大統領選挙に向け、共和党保守強硬派で南部フロリダ州のデサンティス州知事(44)が、党候補指名争いに名乗りを上げた。レースで先んじるトランプ前大統領と事実上の一騎打ちがスタート。勝利にはトランプ氏の岩盤支持層切り崩しが必須条件で、デサンティス氏が形勢逆転のため一層の保守路線にかじを切る可能性が懸念される。

 極端な政策のアピール合戦は選挙陰謀論者の台頭を招き、無党派層や穏健派から見放されつつある共和党の混乱に拍車をかけるだけだ。冷静な政策論争と判断を望む。

 知事として人工妊娠中絶の規制強化や、性自認に関する学校教育への介入など保守色の強い政策を次々と繰り出してきたデサンティス氏は、名門ハーバード大法科大学院修了、元海軍将校という華々しい経歴を背負いながら、反エリートの保守派を意識し民主党などリベラル派を敵視するスタイルを貫く。出馬宣言でも「偉大なる米国の復活を主導する」とトランプ氏岩盤支持層が好むせりふで早速、秋波を送った。

 さらに「社会を正常化する」と民主党からの政権奪還の決意をうたったが、肝心の共和党本体は漂流状態だ。20年の前回大統領選で敗れたトランプ氏の「選挙が盗まれた」という根拠のない陰謀論を信じる議員の増長を許し、今もトランプ氏の強い影響下にある。

 22年の中間選挙で共和党は、優勢が伝えられながら上院多数派奪還を逃し、下院の多数派を辛うじて得ただけだ。原因はこうした陰謀論者に振り回される同党に幻滅した穏健派や選挙の鍵を握る無党派層が民主党に流れたことだが、党指導部はそうした実態の正常化に乗り出してはいない。

 トランプ氏は最近出演した米CNNテレビでも、前回大統領選は「仕組まれていた」と断言した。一本調子の選挙陰謀論とライバルたたきに終始するスタイルは不変で、刑事事件で被告にもなったものの、各種世論調査でデサンティス氏ら他候補を軒並み30ポイント前後の大差で引き離したままだ。

 強硬路線で実績を積み、若さを生かした選挙活動で指名レース序盤を制するというデサンティス氏のもくろみは崩れ始めた。日本を含む4月のアジア、欧州訪問も経験不足の外交面での評価にはつながっていない。

 「小さなトランプ」とやゆされてきたデサンティス氏にとっての即効薬は、分断をあおり「大きなトランプ」と化すことだが、その先には危険が潜んでいると知るべきだ。もしトランプ氏との違いを際立たせるために、人工妊娠中絶の全面禁止など国民の分断を決定的に深める極端な政策を打ち上げれば、トランプ氏もリベラル陰謀論のエスカレートや得意の移民対策強化などで競争に応じるだろう。

 銃規制などの国内政策から対中国外交、ウクライナ支援など、そうした強硬論の舞台となり得る分野は多い。両候補は米国の国際社会での重みを自覚し、地に足を着けた選挙戦に臨むべきだ。

 共和党員は、財政立て直し問題や医療保険制度など保守層が本来重視すべき幅広いテーマで冷静に候補を選んでもらいたい。陰謀や分断の呪文にとらわれ続けてはならない。共和党の選択には、民主党とともに二大政党として支える米民主主義の未来もかかっている。