自らの来し方を振り返ることになった中年男の頼りなさが、妙に心をざわつかせる。第76回カンヌ国際映画祭で、先鋭的な作品を紹介するACID部門に出品された映画「逃げきれた夢」だ。父親の権威が失われた時代に、寄る辺なくさまよう男の姿を、同情するのでも突き放すのでもなく、真摯(しんし)に写し取った。

 主人公は、北九州市の定時制高校で教頭を務める周平(光石研)。定年を前にどこか不穏な雰囲気を漂わせ、唐突に娘に恋人の有無を尋ねたり、妻とコミュニケーションを取ろうとしたりするが、ことごとく空回りする。

 どうやら、...