2013年に出版した拙著「田舎のパン屋が見つけた『腐る経済』」(講談社)が、思いがけず韓国で翻訳されベストセラーとなった。それから毎年のように韓国で講演の仕事を頂くようになり、今年も6月に1週間、ソウルと済州島(チェジュド)に滞在してきた。
初めて訪れた済州島の中心部は都市化され、観光客でにぎわっていた。しかし食を中心に見ると〝いわゆる観光地〟とは違い、地域独特の文化がまだ残っていた。長きにわたり済州の台所として親しまれてきた「東門市場(トンムンシジャン)」に行ってみると、多くの出店で海産物や農産物が無造作に並べられていた。かつて日常にあったこのような風景が、どうして日本から消えてしまったのだろう。雑多な音とにおいが入り混じる活気を懐かしく感じた。
私は「うまいだろう!」という強い押し付けのない食を好む。それは...