常連客にうどんを出す山室晴美さん(右)=島根県津和野町後田、くぼたうどん店
常連客にうどんを出す山室晴美さん(右)=島根県津和野町後田、くぼたうどん店

 JR山口線の観光列車「SLやまぐち号」の乗客や鉄道ファンに半世紀近く親しまれた津和野駅待合室(島根県津和野町後田)の「くぼたうどん店」が31日を最後に閉店した。新型コロナウイルス禍で売り上げが激減しており、6月下旬に始まる駅舎改修工事を機に決断。常連客や鉄道ファンらが駆けつけ、別れを惜しんだ。 (石倉俊直)

 駅弁製造販売のくぼた(同所)が、1977年の現駅舎完成に合わせて店を開いた。きつねうどんや天ぷらうどんなど7種類のメニューがあり、素朴な味わいと客の要望に応じた盛り付けで愛された。店では「かしわめし弁当」や「鮎(あゆ)めし」といった駅弁も扱っていた。

 開店直後は、女性誌の旅行記事に刺激された「アンノン族」と呼ばれる若い女性観光客や、SLやまぐち号の運行開始で盛況が続き、年中無休で営業した。正月三が日も、日本五大稲荷の一つで近くにある太皷谷稲成神社の参拝に合わせて客を迎えた。

 くぼたの久保田昭社長(78)は「苦労の分だけ喜びもあった」と振り返る。最も心に残るのは、雪が降り続いたある平日の出来事。列車の客もまばらで、この日の売り上げはゼロだと覚悟した時、1人の客が立ち寄りうどんを1杯注文した。「感謝の気持ちでいっぱいになり、涙が出るほどうれしかった」という。

 2020年度の売り上げは前年度の半分に落ち込んだ。さらに21年は車両の長期修理の影響でSLけん引のやまぐち号が長期間運休。当面、売り上げ回復は望めず、22年8月完成予定の新駅舎での営業を見送った。

 30日は、閉店をもって退職する店員の山室晴美さん(70)=津和野町畑迫=が、常連客らにうどんやそばを手際よく出した。SL撮影で20年以上来店したという吉永昴弘さん(32)=静岡県沼津市=は「優しいおばちゃん(山室さん)の作るうどんが食べられないと思うと寂しい」と残念そうに語った。

 久保田社長と山室さんは「皆さんの支えがあってここまで営業することができた」と感謝を伝えた。店で扱っていた駅弁は今後、事前予約制で販売を続ける。問い合わせは、くぼた、電話0856(72)1139。