テクノ界の鬼才エイフェックス・ツインの「リチャード・D・ジェームス・アルバム」(1996年)は、美しい旋律と破壊的ビートが絶妙なバランスで成り立った傑作だ。
速いテンポが特徴の90年代に誕生したドラムンベースの一種。彼の場合は痙攣(けいれん)したような変則的高速ビートでドリルンベースと呼ばれた。浮遊する電子音が夢の中で鳴っているようなアンビエントというジャンルも得意とし、このアルバムは「静と動」「美と醜」が混ざり合った印象を受ける。

収録曲「ガール/ボーイ・ソング」はクラシックの名曲のような響きを、パーカッションが切り刻む。1曲目の「4」は激しいビートの裏で、大河の流れを感じさせる牧歌的なメロディーが鳴っている。こんな音楽が存在し、しかも心地よいことに、当時は驚いた。

90年代のアートワークはこの奇妙な笑顔がお気に入りで、子どもたちの集合写真がみんなこの顔に差し替えられたデザインのジャケットもあった。自宅の庭に装甲車が置いてあり、その中で曲を作っているとか、16歳まで自作の曲しか聴いたことがなかったとか、天才・奇人エピソードにも事欠かず、まさに孤高の存在だった。(銭)