「スラムダンク」の映画が中国本土で公開されるのを前に、映画館で登場キャラクターのパネルと一緒に写真を撮る人=4月、中国上海市(共同)
「スラムダンク」の映画が中国本土で公開されるのを前に、映画館で登場キャラクターのパネルと一緒に写真を撮る人=4月、中国上海市(共同)

 日中両国は1978年8月12日、平和友好条約に調印して恒久的な平和と友好を誓い合った。また互いに「覇権」を求めないことを約束した。

 以来45年。日中関係は沖縄県・尖閣諸島周辺の中国公船の活動や台湾問題、日本産水産物の輸入規制など多くの要因から冷え込んでいる。記念日を祝うムードにはない。

 「中国は覇権を求めることはない。中国が覇権を求めたら世界の人民は中国人民とともに中国に反対すべきだ」

 当時、〓(登におおざとへん)小平副首相は調印のため訪中した園田直外相にこう言った。覇権とは力で自分の意思を押し付けることであり、公船の領海侵入は覇権ではないのか。〓(登におおざとへん)氏は尖閣諸島について「数年、数十年、100年でも脇に置いておけばよい」と述べていた。今の対外行動は〓(登におおざとへん)氏の言葉と矛盾する。

 調印後の10月には〓(登におおざとへん)氏が来日。新幹線に乗り、工場などを見学し、日本は祝賀ムードに包まれた。中国はその後、経済成長を経て大国化したが、だからといって立場を変えていいものではない。

 一方、日本は昨年の国家安全保障戦略で、中国の対外姿勢を「わが国と国際社会の深刻な懸念」と位置付け、防衛力の大幅増強を決めた。最近、自民党の麻生太郎副総裁が訪台し、台湾海峡の平和と安定のために強い抑止力が必要で、日米や台湾には「戦う覚悟」が求められていると講演で語った。戦争を想起させるような発言は対立をエスカレートさせかねない。中国人に日中戦争の記憶が刻み込まれていることには配慮が必要だ。

 ただ背景には、中国軍の猛烈な軍拡に加えて、昨年8月に軍事演習で日本の排他的経済水域(EEZ)にミサイルを撃ち込んだ行為が日本側の安保意識を高めたことがあるのも、中国は理解しなければならない。

 隣の大国との関係は言うまでもなく重要だ。米中関係は貿易や軍事面で対立が深刻でも、ブリンケン国務長官らが相次いで訪中するなどハイレベルの対話が続いている。日本も粘り強く対話を続ける必要がある。ただ相手を動かすのは外交力だけでなく、防衛力、経済力、ソフトパワーなど複合的な国力だ。

 習近平国家主席が示す国家主義的イデオロギーで思想統一されている当局者との対話には限界もある。日中関係が政治的に厳しい中で、いま効果的なのは日本のソフトパワーで民間人を味方につけることだろう。

 コロナ禍前の2019年、訪日する中国人は年間1千万人近くに達していた。平和で民主的な日本を肌で感じて親日派が急増し、中国メディアの反日的報道は力を失った。「スラムダンク」など日本の漫画やアニメは若者の間で人気だ。「日本の漫画で民主主義を学んだ」と語る若者も出ている。

 イデオロギー支配に息苦しさを感じ、日本の社会や制度に魅力を感じる者も少なくない。中国人観光客が日本で水産物の安全性を実感すれば、中国政府の「危険」宣伝も勢いを失うだろう。中国が日本への団体旅行を3年半ぶりに解禁したことは、民間交流の活発化に有益で、歓迎したい。

 日本人の中国訪問が増えれば、対中感情の好転も期待できる。若者には中国製のゲームなどが好評で、ソフトパワーも双方向になりつつある。中国には日本人が訪れたくなるような「おもてなし」を求めたい。