総務省が2022年の就業構造基本調査を公表した。女性就業者は過去最多の約3035万人と初めて3千万人を超えた。女性の就業率も53・2%で過去最高だった。働く女性は増えたが、問題は中身だ。働く女性はなお過半数が非正規雇用で、フルタイムで働く人に限っても男女の賃金格差は主要国で最悪レベルだ。制約が多く、仕事と家庭を両立させづらい正社員の働く環境などを改善し、男女の格差解消を急がねばならない。
会社などの役員を除く雇用者に占める非正規の割合は、男性22・1%に対し、女性は53・2%と多い。この状況を生む背景に目を凝らすべきだ。
未就学児を子育て中の人のうち就業している人の割合は、男性の99・0%に対し、女性は5年前より9・2ポイント増えたものの73・4%だ。過去1年間に出産、育児のため離職した女性の数を見ても、5年前の約3分の2に減ったとはいえ14・1万人に上り、男性の0・7万人に比べ著しく多い。
子育てとキャリアを両立させる女性が増えた一方で、これらの数字は、依然として女性が育児をより多く引き受けている現状を示している。女性は結婚、出産を機にキャリアか家庭かの選択を迫られてきた。いったん離職し、子育ての一段落後にまた就業する女性が多いと生じる労働力人口の「M字カーブ」は改善されつつある。しかし正社員のままでは両立困難として、非正規雇用へ移ることで起きる正規雇用比率の「L字カーブ」はなお大きな課題だ。
残業を含め長時間労働で異動や転勤もある正社員の仕事は、家族がいる女性にはつらい。それは同時に、男性が家事、育児に参加し、女性と負担を分かち合うのを難しくする。これが男女の役割分担を強め「男性は正社員、女性は非正規」というモデルの固定化につながっていないか。この状況を打破すれば、少子高齢化で人手不足の国内産業を底上げできる可能性がある。正社員の女性が増えて家計の収入が伸びれば、消費が増えて景気の好循環を呼び込めるかもしれない。
政府が女性活躍推進を掲げて久しいが、今後は働く女性を増やす以上に、女性の就労、雇用の質を高めることを第1の目標にすべきだ。夫婦そろって家事、育児と職業を両立できる職場環境づくりに企業も本気で取り組まなければ、人材獲得競争に取り残される。そういった社会の空気を、官民を挙げて醸成したい。
一方、配偶者に扶養されるパート労働者には、年収106万円以上や130万円以上で社会保険料負担が必要になる「年収の壁」がある。調査では年収「50万~99万円」の女性の49・5%、「100万~149万円」の女性の38・1%が壁を越えないよう就業調整していると回答した。女性の社会進出や所得アップを一層推進するなら、共働きが当たり前の時代にそぐわなくなった壁を見直す議論も不可避だ。
女性の就業率を年代別に見ると、別の問題が浮かび上がる。60~64歳、65~69歳はそれぞれ5年前に比べ7・1ポイント増の62・2%、6・0ポイント増の41・4%になった。30代女性と同程度に高い伸びだ。年金だけでは暮らしが厳しいと、パートに出るシニア女性が数字を押し上げていないか。女性が正社員で働くことは、手厚い厚生年金を将来受け取るためにも望ましい。