外国要人との会談に臨む中国の習近平国家主席(右端)、王毅氏(中央)、秦剛氏(左端)ら=2019年4月、北京の人民大会堂(共同)
外国要人との会談に臨む中国の習近平国家主席(右端)、王毅氏(中央)、秦剛氏(左端)ら=2019年4月、北京の人民大会堂(共同)

 中国で秦剛外相(57)が突然解任され、共産党政治局員の王毅前外相(69)が復帰した。解任から3週間以上たつが、政府からは何の説明もない。

 2012年に習近平指導部になって以降、中国大使館の元参事官や元大阪総領事、元名古屋総領事など、対日関係者に限っても所在不明になった中国外交官は少なくとも4人いるが、いずれも理由は明らかになっていない。今回は外相とあって反響が大きいのは当然だ。

 中国外務省の公式サイトで、秦氏の過去の発言がいったん全て削除されたことからみても通常の異動ではなく、更迭は明らかだ。中国内でもさまざまな臆測が飛び交い、国民も真相を知りたがっているのに、それに応える様子がない。

 更新されたサイトには新外相としての王氏のあいさつが掲載されたが交代についての言及はなく「習氏の指導思想の下で、国家主権や安全を断固守る」とトップへの忠誠を誓っている。

 昨年10月の中国共産党大会で習氏が異例の総書記3期目に突入した際も、何の説明もなかった。説明責任の欠如は、知る権利を軽視する権威主義国家の特徴だろう。

 秦氏は昨年12月に就任したばかりだった。6月25日、ロシア高官らと会談後、公の場に出なくなり、7月に出席予定だった国際会議は「健康上の理由」で欠席し、王氏が参加していた。

 更迭理由は不明だが、習指導部は反スパイ法の改正など国家安全のための取り締まりを大幅に強化している。過去に突然所在不明になった外交官は、機密漏えいやスパイ罪に問われたケースが多いとみられる。

 法治主義といえば聞こえがよいが、中国ではスパイ容疑で拘束される日本人も後を絶たない。いつ捕まるか分からないという恐怖が中国人公務員をも襲っている。

 秦氏は強硬な姿勢を示す戦狼(せんろう)外交官とみなされ、習氏からは高い評価を得ていたといわれる。駐米大使を1年半務めただけで、外相に抜てきされていた。外相の交代が戦狼外交の調整を示すものではない。習指導部では「強い外交」が求められ、王氏も強硬姿勢が目立つ。17年3月には「(中国の発展の事実を受け入れられない)日本人は心の病を治すべきだ」と上から目線で語り、日本人の反発を買った。

 表舞台での露出が多い外相は「外交の顔」だ。国際社会の注目度も高く、中国は大国として何があったのか説明する責任がある。国営メディアが数行の人事異動の記事を配信しただけで、外務省報道官が「報道を見てくれ」と、繰り返すのは異様に映る。

 中国はトップダウン方式で、トップへの絶対服従や極端な秘密主義が求められる。党員になるときは、秘密保持を誓う。上層部が対応を決めるまでは末端は何も知らされないことも多い。外交も習氏をトップとする党指導部が握っており、外相はその実務担当者に過ぎない。秦氏更迭で外交路線が変わることはない。

 だからといって説明なしでよいのか。習氏は「信頼され、愛され、尊敬される中国」の対外イメージづくりを訴えてきた。不透明な対応はそうした理想からはほど遠い。中国政府は国内向けに発信するだけでなく、国外から自分たちがどう見られているのかをもっと真剣に考えるべきだ。