故ジャニー喜多川氏による性加害問題を巡り、調査結果について記者会見する「再発防止特別チーム」の林真琴座長(中央)ら=29日、東京都中央区
故ジャニー喜多川氏による性加害問題を巡り、調査結果について記者会見する「再発防止特別チーム」の林真琴座長(中央)ら=29日、東京都中央区

 ジャニーズ事務所の創業者、ジャニー喜多川氏(2019年死去)による長期間、広範囲の性加害が、外部専門家による再発防止特別チームの調査で「事実」と認定された。人気アイドルを次々に輩出してきた日本で最も有名な芸能事務所の内部で、過酷な人権侵害が続いていた。

 被害者数は少なくとも数百人と推定される。尊厳を踏みにじられた苦痛、苦悩は今も続く。被害を名乗り出た人たちへのネット上などでの二次加害も深刻だ。拡大を防ぐためにも、ジャニーズ事務所は特別チームの提言を受け入れて組織として事実を認め、被害者に誠実に謝罪するとともに、早急に救済措置制度を構築しなければならない。同時に芸能界やメディアにも再発防止のための検証が求められる。

 特別チームの報告書は踏み込んだ内容となった。同族経営の弊害防止と解体的出直しのため、喜多川氏のめいである藤島ジュリー景子社長の辞任を求めたことは、極めて妥当な判断である。

 特別チームの聞き取り調査によると、喜多川氏による性加害は1950年代以降、2010年代半ばまでの長きに及んだ。自宅や合宿所、公演先のホテルなどでジャニーズJr.のメンバーを含む多数の未成年者に、キスや体の愛撫(あいぶ)のほか、性器をもてあそび、口腔(こうくう)性交や肛門性交を強要した。

 生殺与奪の権を握る絶対的な強者が加害者であり、被害者はタレント志望の少年だった。多くは周囲に訴えられず、訴えても「デビューしたければ我慢するしかない」などと言われた。報告書は「強者・弱者の権力構造」の中で、まるで自由意思で応じたかのように誘導する「わな」に追い込まれたと説明している。

 性被害に遭うと、心的外傷後ストレス障害(PTSD)を生じることが多い。実際にフラッシュバックや自殺願望、うつ病といった影響が語られ「自分を汚い存在であると思ってしまう」という発言もあった。

 最大の原因は喜多川氏の性嗜(し)好(こう)異常であり、さらに姉で事務所名誉会長だった藤島メリー泰子氏(21年死去)による放置と隠(いん)蔽(ぺい)であると指摘されている。事務所も見て見ぬふりをして「被害の拡大を招いた」。事務所では取締役会議が開かれず、基本的な社内規定も外部の目もなかった。同族経営の負の側面がどんどん強まっていった。

 だが、報告書も指摘するように、加害者と事務所だけを指弾して済むことではない。メディアがこの問題を積極的に取り上げず、タレントたちの人気に依存し続けたことも事務所の隠蔽体質を強化する要因になった。

 芸能界全体が改善しなければならないことも多い。事務所間の移籍の難しさやハラスメントの多発は、華やかな世界の陰で、働く人たちの人権が守られていないことを示している。

 喫緊の課題は被害者の救済である。救済の仕組みを構築し実行することは簡単ではない。加害者の名を冠した事務所の名称が被害者にさらなる苦痛を強いる可能性もある。会社の株を100%保有する現社長の影響力を排することができるかどうかも問題だ。

 難問は山積している。だが、日本社会が結果的にこの重大な闇を放置してきたのは事実だ。それぞれの立場で、できることから始めなければならない。