ストーカー規制法に基づく禁止命令を受けた加害者全員に対し、10都道府県で警察が定期的に連絡を取ったり、医療機関でカウンセリングや治療を受けるよう働きかけたりする取り組みを今月初めから試行している。これまでは事案ごとに必要かどうかを判断していたが、それを一律に実施し、命令後の加害者対応を強化するのが狙いだ。
3カ月間の試行を経て、他の府県警でも導入を検討するという。今年1月に福岡市のJR博多駅近くで女性会社員が元交際相手の男に刺殺されるなど、禁止命令を受けた加害者がかえって被害者への恨みを募らせ、凶行に及ぶ事件は後を絶たず、現行法の限界を指摘する声が相次いでいた。
2000年に施行された規制法は、恋愛感情のもつれによる付きまといなどストーカー行為に警告や禁止命令を出し、悪質な場合は摘発すると規定。これまでに3度改正され、交流サイト(SNS)のメッセージや衛星利用測位システム(GPS)を使った監視にまで規制対象は広がった。厳罰化も進んだが、被害者らの不安は尽きない。
ストーカー行為の大半は警告や禁止命令によって止まる。しかし、取り締まりの強化だけでは、博多の事件のような悲劇を防ぐことは難しい。今回の試行を経て例えば、公費負担による加害者の治療・更生を制度化するなど、多角的な対策に本腰を入れる必要がある。
警察庁によると、付きまといのほか待ち伏せや尾行、GPSによる監視などストーカー行為を巡って22年、全国の警察に寄せられた相談は1万9131件に上った。相談を受けて警察は警告し、それでも続くときは公安委員会が加害者に聴聞を行い、禁止命令を出す。命令違反には2年以下の懲役または200万円以下の罰金が科される。
緊急性が高いと判断すれば警告なし、聴聞なしで命令を発することもできる。相談件数は前年より若干減ったが、命令は1744件で過去最多となり、このうち946件が緊急の命令だった。相談件数はここ10年ほど、年2万件前後で高止まりし、警察が取り締まりを強化しているが、12年に神奈川県逗子市でデザイナーの女性、13年に東京都三鷹市で女子高生がそれぞれ元交際相手の男に殺害され、16年には東京都小金井市で音楽活動をしていた女子大生がファンの男に刺された。いずれもストーカー被害を警察に相談していた。
そして、博多でも事件が起きた。被害者らは加害者に治療を義務付けるよう求めてきた。警察も16年に受診の働きかけを始め、22年は過去最多の1149人を対象にしたが、実際の受診者は153人にとどまった。費用の自己負担がネックになっているとみられる。
過去に警察庁が公表した加害者の意識調査によると、4人に1人は自分のやっていることをストーカー行為と認識しないまま「元の関係に戻りたい」「自分を理解してほしい」と付きまといなどを繰り返していたとされる。受診によって自らの支配欲や執着心ときちんと向き合わせ、過ちに気付かせる必要がある。
そうしなければ被害者らが抱えるリスクはくすぶり続ける。試行では禁止命令を踏まえての対応だが、安全を確保するために、それ以前のできるだけ早い段階から治療的なアプローチを取り入れることを考えたい。