防衛力強化の財源に政府保有のNTT株の売却収入を充てることの是非を巡り、自民党で検討作業が始まった。完全民営化を目指すかどうかをはじめ、施行から約40年がたつNTT法の妥当性、先端技術を扱う企業の経済安全保障上の位置付けなど検討すべき論点は多い。「売却ありき」でない、多面的で丁寧な議論を求めたい。
政府は、2023年度から5年間の防衛費を43兆円に増額する計画。27年度には約4兆円の追加財源が必要になる見通しで、1兆円強の増税をはじめ、歳出改革や決算剰余金などによって捻出する方針を示している。これに対し自民党内では、有権者に反発の強い増税に否定的な声が依然多い。このため防衛財源を検討する特命委員会は6月、増税の先送りを可能とするため、NTT株売却を含むその他の収入の上積みを政府に求める提言をまとめた。
これを受けて発足したのが甘利明前幹事長を座長とするプロジェクトチームで、役員による初会合を先週開催した。11月をめどに提言をまとめる。並行して総務省は28日、有識者らによるNTT法見直しなどの議論をスタートさせた。
NTTは1985年、旧電電公社が民営化し発足。その基本的な枠組みを明示したのがNTT法で、政府が株式の3分の1以上を保有することや、固定電話の全国的なサービスの確保、電気通信技術の研究と成果の普及などを定めている。
法律に基づき政府が保有する株式は実質33・33%で、時価総額は約4兆8千億円に相当する。防衛財源に使うための売却には法改正が必要だ。
今回の議論で明確にすべきなのは、わが国の情報通信産業におけるNTTの位置付けと、国による関与の在り方である。
先に挙げた規定に加えてNTT法は、総務相の認可なしに定款変更ができなかったり、業務監督上の必要な命令を同相が出せたりと、同社の経営に厳しい制約を課している。NTTの公益性を担保するとともに、通信自由化の中で同社が競争を阻害しないよう監督する必要があったためだ。
だが、その点が新技術やインターネット関連サービスを巡る米IT大手などとの国際競争を妨げてきたとされる。「完全民営化も選択肢」(萩生田光一政調会長)、「足かせは外し、国際舞台で闘わせる」(甘利氏)との声の背景には、そのような問題意識があろう。同時に、通信インフラを担い高度の技術を有する企業として、経済安保上の視点も不可欠だ。株式売却や完全民営化で国の関与が低下すれば、外資による経営参加の拡大につながりかねないといった懸念が出ている。
NTTが開発を進める最先端の光通信技術「IOWN(アイオン)」は、海外企業も注目している。このような技術の保護を念頭に、外資規制の在り方などを合わせて議論することが不可欠だ。
政府が昨年末に防衛費増額を決定して以来、その財源確保策は迷走している。「2024年以降」としていた増税時期は、自民党内の抵抗などで先送りがほぼ確実な情勢だ。NTT株売却が実現すれば、実施はさらに不透明となろう。
だが、NTT株にも限りがあり恒久財源とはなり得ない。防衛費の規模を見直し、無理のない財源の範囲に抑えることが、やはり理にかなっている。