緊急小口資金と総合支援資金の貸付金額の推移
緊急小口資金と総合支援資金の貸付金額の推移
貸付金を取り崩しながら生活する男性=2日、横浜市
貸付金を取り崩しながら生活する男性=2日、横浜市
大人食堂で食料などを受け取る人たち=5月3日、東京都千代田区の聖イグナチオ教会
大人食堂で食料などを受け取る人たち=5月3日、東京都千代田区の聖イグナチオ教会
緊急小口資金と総合支援資金の貸付金額の推移
貸付金を取り崩しながら生活する男性=2日、横浜市
大人食堂で食料などを受け取る人たち=5月3日、東京都千代田区の聖イグナチオ教会

 新型コロナウイルス感染拡大で減収した世帯に生活資金を特例で貸し付ける制度で、合計融資決定金額が9566億7千万円となり、1兆円に迫っていることが6日、厚生労働省などの集計で分かった。融資決定件数は計約227万件。10都道府県で緊急事態宣言発令が続くなどコロナ禍が長期化し、生活苦に陥る世帯が後を絶たない状況が浮かび上がった。

 政府は困窮者支援策として7月から、3カ月で最大30万円を給付する新制度を始める。ただ、条件があり対象者は限られ、生活再建につながるかどうかは疑問だ。困窮者は社会的に孤立しやすく、相談体制の充実や就労機会の提供など多様な支援策を講じることが急務となる。

 特例貸し付けは緊急小口資金と総合支援資金の2種類あり、いずれも無利子。緊急小口資金は一時的に資金が必要となった人向けで最大20万円。総合支援資金は主に失業者向けで、最大9カ月で計180万円。

 厚労省と全国社会福祉協議会の集計(5月29日時点)によると、昨年3月の特例開始以降、緊急小口資金の融資決定件数は約122万件、合計金額は約2267億7千万円に上った。総合支援資金は約77万件、合計金額は約5826億3千万円。今年2月から受け付けを始めた再貸し付けは約28万件、約1472億7千万円に達した。

 政府は、所得の減少が続く住民税非課税世帯などは返済免除とするが、該当しない場合は早くて来年度から返済を求められ、家計の負担となる恐れがある。

 最大30万円を給付する政府の新制度は、二つの特例貸し付けを上限まで借りてしまった人など対象が限定的だ。全国社会福祉協議会の担当者は「(政府は)幅広い世帯をカバーできるよう支給制度をさらに充実させる必要がある」と話す。

 

「借金が福祉か」職員葛藤 自立への支援不足指摘

 緊急小口資金などの特例貸し付けは、新型コロナウイルス禍で生活困窮者の命綱として機能してきた。一方で「借金を増やし、重荷になるのではないか」と葛藤する福祉職員は多い。政府は申請期限を8月末に延ばし、最大30万円の給付金制度も新設。専門家は「応急的な対応ばかりで、自立につながる支援が足りない」と指摘する。

 5月の大型連休、生活困窮者に食料配布や生活相談をする「大人食堂」が東京都内で開かれた。シングルマザーや高齢夫婦など約660人が利用した。「過去に例のない利用者数だ」と話すのは主催団体の一つである「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表。「リーマン・ショックでは製造業の男性が多かったが、コロナ禍では普通に生きてきた老若男女、幅広い層に貧困が広まっている」

 大人食堂を訪れた横浜市の男性(51)は緊急小口資金と総合支援資金の計40万円を借りた。警備員として働いていたが、コロナ禍でシフトが週5日から3日に。月給18万円が10万円を切り、昨夏申請した。

 貸付金を切り崩しながらの生活で、現在の所持金は7万円足らず。政府が新たに打ち出した最大30万円の給付金は「1人世帯がもらえるのは1カ月6万円。とてもじゃないが生活できない」と肩を落とす。

 コロナ禍では非正規などの弱い立場の人が真っ先に振るい落とされている。男性は在日韓国人2世で、「うちは外国人を雇わない」と就職活動で苦戦を強いられ、契約社員として職を転々としてきた。昨秋、体調不良で離職。現在求職中だが大半は書類選考で落ち、生活保護の申請を検討している。

 「苦しい人に借金をさせるのが福祉なのか」「生活再建できた家庭をほとんど聞かない」。緊急小口資金などの申請窓口となる社会福祉協議会の関連団体の調査では、職員の91%が制度の有効性に疑問を持っていた。

 本来は対面相談を通じてその人に合った多様な支援策を案内するが、コロナ禍では迅速さを重視していることが背景にある。郵送での申請が可能となり、「コロナ前はどういう生活状況だったのか、今はどの程度の困窮状態なのか把握できていない」(厚生労働省関係者)のが実態だ。

 貧困問題に取り組む東京大学の湯浅誠特任教授は特例貸し付けについて「困窮を一時的にしのぐには有効だが、生活再建につなげるには限界がある」と主張。「職業訓練を受講できるようにするなど、明日を開く支援が求められる」と語った。

 

 コロナ禍の特例貸し付け 厚生労働省は生活困窮者らが暮らしを維持するための資金を貸し付ける制度を見直し、対象を新型コロナウイルス感染拡大で減収した世帯にも拡大した。生活保護受給者は対象外。貸し付け上限も拡充し、緊急小口資金は20万円に倍増。返済は最長2年。総合支援資金は2人以上世帯では最大3カ月で計60万円が上限だったのを、特例で最大9カ月で計180万円に引き上げた。10年以内に返済する。窓口は各地の社会福祉協議会で、申請は8月末まで。