こども政策相に決まり、首相官邸に入る加藤鮎子氏。女性閣僚は過去最多と並ぶ5人になった=13日午後
こども政策相に決まり、首相官邸に入る加藤鮎子氏。女性閣僚は過去最多と並ぶ5人になった=13日午後

 岸田文雄首相(自民党総裁)の第2次再改造内閣が発足した。首相が政権を担って来月で2年。このところ重要課題への対処で、独善的な姿勢が目につくようになった。新たな内閣は民意に寄り添い、説明責任を果たすことが、政治不信の解消につながると改めて心すべきだ。

 岸田首相は2021年10月の就任後初めて行った所信表明演説で「国民の声を真摯(しんし)に受け止める信頼と共感を得られる政治が必要だ」と訴え、その後も繰り返し強調してきた。

 再改造内閣では、松野博一官房長官、鈴木俊一財務相、西村康稔経済産業相らが留任。併せて実施した自民党役員改選でも麻生太郎副総裁、茂木敏充幹事長、萩生田光一政調会長が続投した。来年秋の自民総裁再選に向けて、政権基盤が揺るがないよう内閣と党の骨格を維持した「内向き」の人事と言える。

 女性閣僚が過去最多と並ぶ5人になったのは評価できる。ただ肝心なのは、首相が掲げる「信頼と共感を得る政治」の実行だ。それには、国会対応を含め政権運営の在り方を見直す必要があるだろう。

 政府は昨年12月、増税を伴う防衛費の大幅増額を決め、他国の領域内を攻撃できる反撃能力(敵基地攻撃能力)の保有を打ち出した。安全保障環境の悪化により、防衛力の向上が求められているのは確かだ。問題なのは「専守防衛」の理念を逸脱し、戦争に加担しかねないとの危惧が、岸田首相や閣僚の通り一遍の国会答弁では払拭されなかったことだ。

 増税分以外の財源を確保する特別措置法を巡っては6月、首相が衆院解散をにおわせ、選挙準備が整わない野党の反対論を抑え込む形で成立に持ち込んだ。国民に広く理解と協力を求めたいなら、首相がアピールする「聞く力」と相いれない強権的な手法は控えるべきだ。

 東日本大震災後の抑制的な原発政策も転換し、関連法の改正で60年超の運転を可能にしたが、経年劣化による重大事故発生の懸念は置き去りにされた。8月に東京電力福島第1原発の処理水の海洋放出を始めたことには、漁業関係者を中心に風評被害への不安が根強い。

 これらの課題で国会審議を尽くしたとは言いがたい。個人情報の漏えいなどトラブルが続出しているマイナンバーカード問題もそうだ。行政監視が本分の野党の非力も要因だが、政権側にこそ課せられた説明責任を、首相らが軽んじているとみられても仕方あるまい。

 自民党議員の不祥事対応も同様だ。昨年8月の前回の内閣改造後、自民から入閣した4人が辞任。離党や議員辞職に至ったケースも相次いだ。

 首相は疑惑を指摘された議員が「説明責任をないがしろにすることは絶対にあってはならない」と述べながら、指導力を発揮した気配はなく、政治不信を増幅させた。

 再改造内閣は、マイナカードの総点検を踏まえた取り組み、物価高に対応する経済対策、防衛費や少子化対策の財源などについて、政府の方針をまとめることになる。

 どれも国民生活に関わる先送りできない課題だけに、臨時国会を早期に召集して論議を重ねる必要がある。その場で首相や閣僚が国民の「信頼と共感」を得る説明努力をしているかどうか。次期衆院選で、私たちが下す審判の判断基準となろう。