いよいよ再稼働に向けたカウントダウンが始まる。
中国電力が、島根原発2号機(松江市鹿島町片句、出力82万キロワット)を2024年8月に再稼働すると発表した。具体的な再稼働時期を示すのは初めてで、翌9月からの営業運転再開を見込む。1989年2月に営業運転を始め、定期検査入りした2012年1月以降停止している島根2号機は、12年7カ月ぶりに稼働する見通しとなった。
政府が従来の方針を百八十度転換して「原発回帰」にかじを切った中、必然的な流れと言える。電力の安定供給とコスト面から待望論が高まっていた地元経済界にとっては吉報だろう。
立地自治体の松江市と島根県に加え、原発30キロ圏内の出雲、安来、雲南各市と、鳥取県、米子、境港両市の首長も昨年6月までに再稼働への同意を表明していた。
東京電力福島第1原発事故以降、停滞していた原発を取り巻く環境は活性化してきた。だが肝心な核燃料サイクルを巡る課題は何も解消されていない。
原発の使用済み燃料にはまだ使えるウランやプルトニウムが残っており、この燃料を化学的に処理し、原発で再利用するのが核燃料サイクルである。処理の過程で出た廃液はガラスで固め、高レベル放射性廃棄物(核のごみ)として地下深くに最終処分する。
この最終処分場を巡っては、北海道南西部に位置する寿都(すっつ)町と神恵内(かもえない)村で、受け入れに向けた第1弾となる文献調査に入っているものの、北海道の鈴木直道知事は次の段階となる概要調査入りに反対を表明している。
長崎県対馬市議会も12日、文献調査受け入れを促進する請願を賛成多数で採択したが、最終的な判断は比田勝尚喜市長に委ねられ、調査応募に踏み切るかどうかに注目が集まる。
プルトニウムなどを取り出す肝心な再処理工場(青森県六ケ所村)もトラブルが相次ぎ、完成のめどが立っていない。
加えて、福島第1原発事故から12年半が過ぎた中、原発を動かす電力会社への信頼が回復できているとも言い難い。
東電柏崎刈羽原発(新潟県柏崎市、刈羽村)では、不正侵入を検知する設備の不備や運転員によるIDカードの不正利用などテロ対策のずさんさが発覚。21年4月、事実上の運転禁止命令を受けた。
島根原発でも昨年5月、偽造した身分証明書を使った構内への立ち入り事案が発生。確認体制の甘さが露見した。
また中電は、電力販売を巡るカルテルで公正取引委員会から独禁法違反の認定を受け、約707億円の課徴金納付を命じられ、社長、会長が引責辞任する異例の事態に追い込まれた。
中川賢剛新社長は信頼回復へ向けて「信頼、創造、成長の、経営理念の原点に戻る。真因を明らかにし、再発防止の取り組みを深める」と述べたが、一度失った信頼を取り戻すのは簡単なことではない。
島根原発2号機の再稼働に向けては、停止期間が10年以上に及んでおり、運転経験のない従業員が増えているのも懸念材料で、育成が急がれる。
再稼働する上で安心・安全の確保は必要不可欠だ。地元住民の厳しい目が向けられていることを忘れてもらっては困る。