記者会見する損害保険ジャパンの白川儀一社長(中央)ら=8日、東京都新宿区
記者会見する損害保険ジャパンの白川儀一社長(中央)ら=8日、東京都新宿区

 中古車販売大手ビッグモーターによる自動車保険の不正請求問題に絡み、損害保険ジャパンの白川儀一社長が引責辞任する意向を表明した。

 不正を認識しながら役員の異論に耳を貸すことなく、一時停止していたビッグモーターとの取引再開を主導していた。「判断ミス」と言うより「意図的」と言うべきで、辞任は当然だ。

 自社の利益を最優先し、顧客を裏切った罪は重い。ビッグモーターと同根と言うべきだろう。金融庁は近く両社に立ち入り検査に入る方針であり、損保ジャパンでは外部弁護士が調査を継続している。

 親会社SOMPOホールディングス(HD)のグループ統治に問題はなかったのかなど徹底的に追及すべきだ。社長辞任で幕引きとはいかない。

 不正請求問題の背景には、ビッグモーターと損保各社の持ちつ持たれつの関係があった。

 損保ジャパンなど大手3社は交通事故車両の修理をビッグモーターにあっせんし、同社はその件数に応じて自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)などの契約を3社に割り振っていた。

 修理あっせんが多いほど多額の契約を獲得できる仕組みで、ビッグモーターが扱う年間保険料約200億円のうち損保ジャパンが約6割を占めたこともあったという。突出して親密な関係であり、結果的に不正請求を助長したと言えよう。

 不正の内部告発を受けて、3社は昨年6月、修理あっせんを停止。ビッグモーターはその直後、修理費の水増しは作業ミスなどが原因として、不正を否定する自主調査結果を3社に報告した。

 白川氏は、組織的不正を認める証言が改ざんされた虚偽報告であることを部下の報告で知っていたが、一部役員の反対を排して取引正常化を主導。7月末には1社だけ修理あっせんを再開した。

 取引再開の意思決定をしたのは公式な取締役会ではなく、出席者を限定した「役員会議」だったというから驚きだ。

 記者会見で白川氏は「取引が大きく減る可能性を危惧した。ビッグモーターの反発を恐れた」と述べた。損保のチェック機能を信頼する保険契約者の思いを踏みにじる意識と言わざるを得ない。

 水増しによって修理費が高額になったことで、本来必要ない保険を使って等級が下がり、毎年の保険料が割り増しになった契約者は少なくない。等級を戻すなど契約者の利益回復を急がねばならない。

 会見に同席したSOMPOHDの会長兼グループ最高経営責任者(CEO)の桜田謙悟氏は「(自身に)何らかの責任はある」と発言の歯切れが悪くどこか人ごとのように見えた。今後は同氏の責任も焦点となろう。

 折しも大手損保を巡り、企業向け損害保険のカルテル疑惑が表面化している。大規模事業のリスクを複数の損保が引き受ける「共同保険」の入札で、保険料の価格調整をし、保険料が高止まりした疑いが持たれている。これも利益偏重、顧客軽視の点では同じだ。

 損保を含む保険業界は2000年代に大規模な保険金不払い問題が表面化し、厳しい批判を受けた。契約者が気付かなければ保険金を支払わないケースが横行していた。

 あの時、全ての保険会社が顧客最優先を誓ったはずだ。その原点に戻らねばならない。