松江西高の新学科の特色を伝えるパンフレット
松江西高の新学科の特色を伝えるパンフレット

 これほど混乱した状況下で、在校生はまっとうな高校生活を過ごせるだろうか。

 私立松江西高校(松江市上乃木3丁目)の学科新設を巡り不当な懲戒処分を受けたとして、教員ら13人が高校を運営する学校法人永島学園を相手に、処分の無効確認と計1540万円の慰謝料を求める訴訟を松江地裁に起こした。

 提訴後に記者会見した原告の教員によると、処分を受けて一部が休職や退職に追い込まれたという。対する法人側は正当な処分と主張し、真っ向から争う姿勢を示している。

 同校には現在、進学などを目指す「普通科」と、情報処理や簿記などを学ぶ「総合ビジネス科」の2学科がある。

 事の発端は、法人側が昨夏に示した運営方針の転換だった。2024年度の新入生から、有償のインターンシップ(就業体験)で単位を認定する、新設の「総合学科」(定員172人)に一本化し、就職を目指す生徒向けに特化すると打ち出した。島根県に学科の設置認可を申請しており、諮問を受けた県私立学校審議会が審議している。

 これに対して教員側は、進路の選択肢を狭める方針や、根拠が示されないままトップダウンを進める姿勢、保護者らの理解が得られていない状況を踏まえて、当初から見直しを要求。法人側が今年3月に計画した保護者説明会を前に「教職員一同」を差出人とする文書で、保護者にカリキュラムが変更される可能性があることなどを伝え、説明会への出席を求めた。

 これを法人側は、許可していない文書を出して生徒、保護者を混乱に陥れたと問題視。就業規則違反として13人を懲戒処分にした。

 就職に特化する理由を、法人の永島一雄理事長は「他校に負けない特色を打ち出す」ためと説明する。少子化の進展で中学卒業予定者が年々減少する中、生徒の獲得に向け、学校の特色を際立たせ、魅力アップを図りたいのは当然だろう。

 一方、教員側には法人側への不信感があったようだ。訴状によると、座学の授業を減らすことを想定して教員数が減らされており、性急なカリキュラム変更は教員の負担を増大させると指摘。文理選択や選択科目が制限される状況で「生徒に対し充実した教育活動を提供できなくなる」と懸念を示す。

 また、会見した原告の一人は「教員が減らされ、かなり疲弊している。生徒のため働いているが、このままでは生徒のためにならない」と窮状を訴えた。

 生徒数の減少などを背景に常勤教員が減らされる中、労使の対立を決定付けたのが、今回の懲戒処分だった。

 提訴に注目が集まる一方で心配なのが、蚊帳の外に置かれた在校生やその保護者たちだ。

 法人側は、在校生への影響はないとする。とはいえ、ある教員によると、常勤の教員はここ10年で半減し、誰かが休んだり出張したりすれば、授業が回らないのが実態という。保護者からも、「先生がいない」という理由で授業がなくなり、自主学習になることもしばしばあったという指摘が上がっている。

 今回の提訴が、学習環境の悪化に拍車をかけることになってはならない。第一に在校生たちの不安解消に努めてほしい。