陽光に照らされながら、柔らかな白いドレスの布地に深いワインレッドの糸が幾何学模様を描いていく。「三角形を組み合わせた柄は、生命の象徴イトスギの木がモチーフ。母から教わった家族の模様なの」。ヨルダンの首都アンマンにある博物館の一室で、パレスチナ刺しゅう職人アディラ・サバ(55)は、窓際の床に腰を下ろして静かに語った。

 刺しゅうは村ごとに模様や色彩が異なり、母から娘へと代々受け継がれてきた。何世紀にもわたって大切に紡がれてきた、パレスチナ人...