消費税のインボイス(適格請求書)制度が始まる10月まで、残り10日余りとなった。最も影響を受けるのが小規模の免税事業者で、インボイスを発行できる課税事業者へ転換するかどうかを迫られている。制度の定着には事業者の理解と不安払拭が欠かせない。国は制度の周知徹底を図るとともに、事業者支援に万全を期してもらいたい。
インボイス導入はモノやサービスの取引で発生する消費税について、正確な納税額を計算できるようにするのが目的だ。消費税が10%へ引き上げられた際に、食料品などに8%の軽減税率が適用され複数税率となったことがきっかけとなった。
事業者は、売り上げ時に受け取った消費税額から、仕入れ時に自らが支払った消費税額を差し引いて納税額を算出する。「仕入れ税額控除」と呼ばれる仕組みだ。
新しい制度の最大の特徴は、仕入れ先の発行したインボイスがなければ税額控除が原則できなくなる点にある。
インボイスは「請求書」「領収書」「レシート」などへの事業者の登録番号と適用税率、税率ごとの消費税額の記載が要件となる。仕入れ先から受け取ったこのインボイスを用いることで、正確な納税が可能となる。
日本の消費税に当たる付加価値税のある海外主要国では、インボイスが導入済みだ。わが国でも消費税の開始当初から議論はあったが、中小事業者の負担に配慮して導入は見送られてきた。同じ理由から、中小事業者の納税を免除する制度を設けてきたのが特徴だ。
売上高1千万円以下がこの免税事業者に当たるが、新制度の下でインボイスを発行するには国に登録し課税事業者へ転換する必要がある。この転換の是非に多くの事業者が頭を抱えている。転換すれば納税義務が生じ今まであった「益税」と呼ばれる消費税の差額分の手取りが減る一方、免税事業者にとどまればインボイスが発行できず、取引からはずされたりする恐れがあるからだ。法人向け取引の多いフリーランスや零細事業者に新制度反対の声が多いのもうなずけよう。
財務省によると、取引上インボイス発行が必要とみられる160万免税事業者のうち、課税転換を選んだのは7月末で6割弱にとどまる。複雑な制度への理解不足や不安から決めかねている事業者は多いだろう。慌てずに国などが用意した窓口に相談してほしい。
新制度の定着へ国の支援は当然である。免税事業者の負担を軽減するため課税転換した際の納税額を一定期間は低く抑えたり、インボイスが出せない事業者からの仕入れでも一定の税額控除を認めたりする経過措置が設けられた。発注元による免税事業者への一方的で不利な扱いを防ぐには、公正取引委員会の監視強化が特に重要だ。
事業者に影響の大きいインボイス制度だが、サラリーマンも無縁ではない。勤める企業によっては接待やタクシー利用の際に、インボイス領収書の受け取りを社員に求めるようになるだろう。「副業」でインボイス登録を検討するケースも出てきそうだ。
インボイスは消費税が一部事業者の手元に残る益税問題の改善につながると同時に、国の税収増に寄与する。その税の使い方が適切かどうか、国民として改めて目を向ける機会ともしたい。