全国で相次いだ広域強盗事件のうち、1月に東京都狛江市の90歳女性が襲われ死亡した事件で「ルフィ」などと名乗り指示したとして、フィリピンから強制送還された男4人が強盗殺人などの疑いで再逮捕された。一連の事件の中で唯一、被害者が亡くなっており、警視庁と4府県警は最重要事件と位置付け、指示役の特定を進めていた。
狛江事件に続いて、インターネットを介して「闇バイト」で互いに面識のない実行役を集め、強盗や窃盗などを指示する似たような手口の犯行が各地で発生。実行役がスマートフォンで指示役と連絡を取りながら、言われるままに被害者に暴行を加えるなどし、社会に衝撃を与えた。
捜査は大きな節目を迎えた。今年1~6月の上半期に全国の警察が認知した刑法犯は前年同期比で6万件近く増え、33万件余り。上半期では21年ぶりの増加となり、闇バイトによる強盗を含む侵入犯罪や街頭犯罪が目立つ。新型コロナウイルス禍での行動制限が緩和されたことが主な要因とみられるが、体感治安の悪化が懸念されている。
いまだ指示役の特定に至っていない事件もいくつかあり、それを含めて全容解明を急がなくてはならない。併せて、多くの若者らを言葉巧みに犯罪に引き込み、使い捨てにする闇バイトの実態解明と根絶に向け、地道に対策を積み上げていくことが求められている。
4人は特殊詐欺グループの幹部で、収容されていたフィリピンの入管施設から、ルフィのほか「キム」や「ミツハシ」などと名乗り、闇バイトで集めた実行役に匿名性の高い通信アプリ「テレグラム」の通話機能によってイヤホンを通じ指示を出していたとされる。
狛江事件では、実行役の男らが宅配業者を装って住宅に侵入。女性に暴行して骨折させ、高級腕時計3本などを奪って逃げた。女性は急性呼吸不全で亡くなっている。
ルフィの指示で京都市の貴金属店から高級腕時計を奪ったとして強盗罪などに問われ、大阪地裁の裁判員裁判で懲役12年の判決を言い渡された男の公判で、ルフィとのやりとりの一部が明らかになっている。ルフィは「捕まることはない」「君だけ生き残るようにする」などと持ちかけ、犯行日時や場所などを詳しく指図していたという。
今回再逮捕された4人のうち1人は、この時の指示役として逮捕・起訴されている。ただ闇バイトという根っこを絶たないことには、広域強盗事件のように身近な所で相次ぐ犯罪に歯止めをかけるのは難しいだろう。
もともと特殊詐欺で被害者から現金やキャッシュカードを受け取る「受け子」などを募る手口は以前からあった。対策が後手に回った感は否めない。警察と金融機関などが連携し、いったん抑え込んだかに見えた特殊詐欺も昨年は370億円の被害が確認され、8年ぶりに増加に転じた。
かつては闇サイト掲示板に募集情報が載り、応募したらメールなどで連絡が取られた。だが今や多くの若者が参加する交流サイト(SNS)で募集があり、メッセージを消せるテレグラムなどのアプリで、やりとりが行われるようになった。指示役も海外に拠点を移す傾向にある。闇バイト情報の削除に加え、アルバイト感覚で犯罪に加担するリスクの周知を含め重層的な対策が必要だ。