「地域の足」はこのまま細ってしまうのだろうか。新型コロナウイルスの感染症法上の扱いが5類へ移行されて4カ月。コロナ禍の利用低迷が落ち着きを取り戻しつつあった山陰のバス業界に新たな問題が浮上した。運転手不足を理由にした路線バスの減便が島根県東部で相次ぎ明らかになった。
松江市交通局(松江市平成町)が8日、慢性的な運転手不足を理由に、10月1日から市営バス4路線を減便すると発表した。松江城など観光地を巡る「ぐるっと松江レイクライン」や、他路線との重複区間がある路線が対象になる。
市交通局は全10路線で平日計405便、土日祝日は計306便を運行している。それを維持するには92人の運転手が必要と試算するものの、乗務可能者は83人。休日出勤や貸し切りバスの新規受け付け停止などで運転手を確保するなど、厳しいやりくりが続いているという。
その3日後、一畑バス(同市西川津町)が、出雲市内を運行する大社線と日御碕線の路線バス2路線を、同じく10月1日のダイヤ改正で計14便減便すると発表した。こちらも運転手不足が理由だ。
運転手は2019年7月時点で122人いたが、今年8月末には95人に減少。貸し切りバスの受け付け制限や高速バスの減便で対応しているとはいえ、通常運行に必要な人数確保が困難な状況が続いており、8月には松江、雲南両市を走る5路線で平日計20便(土日祝日は16便)の減便に踏み切っていた。
ただ、このまま運転手不足が進めば、減便では済まなくなるかもしれない。
大阪府では、富田林市など4市町村でバスを運行する金剛自動車(富田林市)が11日、運転手不足と利用者減などを理由に、バス事業を12月20日に廃止すると発表した。
翌日会見した同社の白江暢孝社長によると、13年度に172万人だった利用者はその後、140万~150万人で推移していたが、20年度はコロナの影響で98万人に激減。20~22年度で計2億円の赤字が出た。運転手も昨秋から今年にかけて30人から17人まで減り、5月からは他の事業者から3人の派遣を得て路線を維持している。
4自治体の首長からは「補助金を出す」と継続を要請されたものの、運転手不足が解消しないことや、ドライバーの時間外労働の上限が課される「2024年問題」もあり、収益がさらに悪化すると伝えたという。
松江市営バスもこの問題を控え、増員がなければ現状ダイヤでの運行は困難として、前倒しで減便に踏み切った。
運転手不足の解消に向け、国土交通省は外国人労働者の受け入れを認める在留資格「特定技能」の対象に「自動車運送業」を本年度内に追加する方向で検討に入った。業界にとっては吉報だ。だが、抜本的な解決を図るには若い運転手の増加が不可欠。それには、他の業種に比べて低いとされる賃金体系の改善が必要になるだろう。
自動車の普及率が高い山陰だが、「地域の足」を守るため、われわれ住民も路線バスを積極的に利用する意識を持ちたい。ガソリン価格の高騰が注目を集める今こそ、見直す機会だ。環境負荷の低減にも役立つ。