閉廷後、取材に応じる赤木雅子さん=13日、大阪市
閉廷後、取材に応じる赤木雅子さん=13日、大阪市

 森友学園問題に関する財務省の決裁文書改ざんを苦に自殺した近畿財務局の元職員赤木俊夫さんの妻雅子さんが、関連文書を不開示とした財務省の決定取り消しを求めた訴訟の判決で、大阪地裁は請求を棄却した。大阪地検特捜部に財務省が任意提出した文書で、国側は「将来の捜査に支障が生じる恐れがある」と主張して、認められた。

 この裁判で雅子さん側は、鈴木俊一財務相や当時の近畿財務局長の証人尋問を地裁に申請したが、必要ないとして却下された。「自死の真相が知りたい」「事実をありのままに話してほしい」という雅子さんの思いはまた、かなわなかった。

 国や、理財局長として改ざんを指示したとされる佐川宣寿元国税庁長官への損害賠償請求訴訟でも、佐川氏の証人尋問は認められなかった。佐川氏は国会の証人喚問で刑事訴追の恐れを理由に証言を拒否。改ざんを巡る特捜部の捜査で不起訴になっても、口を閉ざしたままだ。改ざんの動機や具体的指示、政権中枢の関わりは判然とせず、当時の関係者も誰一人として語ろうとはしない。

 公文書の改ざんや廃棄が通常業務のように行われ、国会では虚偽答弁が繰り返された。国民に対する重大な背信行為にもかかわらず、政府は財務省の内部調査のみで済ませ、幕引きを急いだ。解明は、行政監視を担う国会の役割だ。真相を埋もれさせてはならない。

 選挙の応援演説中に銃撃に遭い、亡くなった安倍晋三元首相が2017年2月に「私や妻が関わっていれば、総理も国会議員も辞める」と答弁したのが、改ざんの引き金だった。森友学園に国有地が格安で売却され、安倍氏夫人と学園側との親密な関係に疑惑の目が向けられたため、複数の文書から夫人に関する記述などが削除された。

 そんな中、改ざんに抵抗した赤木さんはうつ病を患い、18年3月に自ら命を絶った。その後、財務省は調査報告書を公表。雅子さんが国と佐川氏に損害賠償を求めた訴訟で、赤木さんが改ざんの経緯を記した「赤木ファイル」も開示されたが、理財局内の指示や、やりとりなど肝心の部分はいまだ表に出ていない。

 雅子さん側は佐川氏らの証人尋問を目指し、国相手の訴訟では地裁とも話し合い、赤木さんの上司らも含め尋問の順番を検討するなど準備を進めた。ところが国側は一転して、請求を全面的に受け入れる「認諾」の手続きを取り、訴訟は打ち切られた。証人尋問を避けたいという思惑が働いたのを見て取れる。

 今回の判決に雅子さんは「理由が国の主張通りで、控訴する」とコメントを出した。佐川氏との訴訟でも請求を退けられ、控訴。裁判は続けるものの、証人尋問が実現する見通しは立たない。

 岸田文雄首相は21年10月、再調査を求める雅子さんの手紙を受け取ったと明らかにし「しっかり受け止めさせていただきたい」と語ったが、認諾はその約2カ月後のことだった。安倍政権の負の遺産をいつまで引きずり続けるつもりなのか。

 民事訴訟を通じての真相究明には限界も見えてきた。しかし真相に近づきたいのは、雅子さんだけではない。国民の多くも同じ思いだろう。このままでは、森友問題と公文書改ざんなどで大きく損なわれた政治・行政に対する信頼の回復はさらに遠のくことになる。