7日、パレスチナ自治区ガザからのロケット弾攻撃で燃え上がる炎と逃げる男性=イスラエル中部アシュケロン(ロイター=共同)
7日、パレスチナ自治区ガザからのロケット弾攻撃で燃え上がる炎と逃げる男性=イスラエル中部アシュケロン(ロイター=共同)

 パレスチナ自治区ガザを実効支配するイスラム組織ハマスと、イスラエル軍が大規模戦闘に入り、双方で500人を超える犠牲者が出たもようだ。死傷者は3千人を上回っている。

 戦闘激化の先には市民の苦しみしか待っていない。イスラエルのネタニヤフ首相は「戦争状態」を宣言し、徹底して報復する姿勢だが、もう十分だ。双方はこの無意味な戦いを即時停止すべきだ。

 戦闘発生はユダヤ教の祭り「スコット(仮庵の祭)」が終わった翌日で、ユダヤ教徒にとって神聖な安らぎの時期だった。そこに攻撃を仕掛けたハマスの非は明らかだ。

 一方、ユダヤ人側もこの祭りの期間中に5千人以上が、エルサレムにあるイスラム教とユダヤ教双方の聖地である「神殿の丘」(イスラム名ハラム・アッシャリーフ)を訪れた。

 ここにはイスラム教徒にとって最も重要な礼拝所の一つ「アルアクサ・モスク」がある。イスラム教徒が大半を占めるパレスチナ側にとって、ユダヤ人が大挙して訪れるのは挑発行為に等しい。

 ネタニヤフ氏は昨年末に首相に復帰し、現政権は「史上最右派」とされる。アラブ人に対する人種差別を隠さない極右政党の閣僚もいる。

 2国家共存の理想実現を目指した1993年のオスロ合意が有名無実化して久しく、占領地に住むパレスチナ人の絶望と不満は頂点に達していた。

 ガザはイスラエルに境界を封鎖された「天井のない監獄」と呼ばれる。ユダヤ人側による神殿の丘訪問は、充満した怒りのガスに、火が付いたマッチを意図的に近づけるような振る舞いだった。

 長い対立の歴史を振り返ればイスラエルとパレスチナ双方に非を負うべき面が多々ある。だからこそ、国際社会の中でこの地域に唯一、長期的な影響力を維持してきた米国は、公平な仲介者としての対応が期待されてきた。しかしバイデン米大統領はハマスによる攻撃から間もなく「米国はイスラエルとともにある。私たちは支援を惜しまない」と演説し、イスラエル寄りの立場をいち早く鮮明にした。

 バイデン大統領は発足から一貫してネタニヤフ氏には批判的で両氏は冷たい関係にあった。だがハマスの無謀な攻撃は、バイデン政権を一気にネタニヤフ氏に近づけてしまった。ハマスにとって重大な戦略的失敗だ。

 目下の急務は、事態の悪化を防ぐことだ。ますます右傾化するネタニヤフ政権と、イスラエル打倒に執念を燃やすハマスに対話のチャンネルはないが、国際社会が双方の間を行き来し、シャトル仲介を試みることは可能なはずだ。

 鍵となるのは、ハマスが異例の越境攻撃で捕らえたとされるイスラエルの市民や兵士の解放である。戦力で圧倒するイスラエル側は報復攻撃に走るのをやめ、市民や自軍兵の安全確保に向けて冷静に対話する姿勢を示すべきだ。そうすればイスラエル国民の感情の暴走も回避できるだろう。最も重要なのは双方の市民の命だ。

 米国が戦闘停止の仲介に直接関与できなくても、双方と良好な関係を築く北欧諸国への期待は高い。投資や支援を得意とする日本も当然、停戦に貢献する機会を探るべきで、傍観は許されない。岸田文雄首相は言葉だけの外交ではなく、実行力を示してもらいたい。