衆院長崎4区補欠選挙が告示され、既に選挙戦がスタートしている参院徳島・高知選挙区補選とともに22日に投開票される。対象選挙区は限られるが両補選とも与野党対決の構図だ。選挙結果は、岸田文雄首相(自民党総裁)の政権運営に影響を与えよう。
地域課題に加え、物価高を受けた経済対策、国民負担に関わる防衛力強化や少子化対策の当否も重要な争点だ。与野党は、有権者の投票判断に資する論戦を交わしてもらいたい。
衆院補選は、自民と立憲民主党がそれぞれ公認候補を擁立。参院補選には、自民公認候補と立民が中心になって支援する無所属候補が立候補している。
経済対策に関し岸田首相は、物価高による消費税などの税収増を「国民に適切に還元すべきだ」として、給付措置、減税、社会保障負担の軽減に言及。10月中に対策を取りまとめ、その裏付けとなる2023年度補正予算案を20日召集の臨時国会に提出、成立を図る考えを表明している。
物価高が国民生活を直撃している中、経済対策は確かに必要だが、実効性と同時に財政状況も勘案しなくてはならない。その上で、対策費を算出するのが筋であるはずだ。ところが、自民内では15兆~20兆円規模を求める声が先行。首相の最側近で官房副長官を務めていた木原誠二幹事長代理は「税収が増え、予算をばんばん使う時代になった」とぶち上げた。
23年度予算が35兆円余りの国債を発行して相変わらず歳入の3割を借金に依存しているにもかかわらず、中身より規模ありきの発想である。選挙目当てのばらまきと疑われても仕方あるまい。首相は経済対策の具体的内容を早期に示し、選挙戦で俎(そ)上(じょう)に載せるべきだ。
従来の計画から17兆円上積みし5年間で43兆円をつぎ込む防衛力強化、年間3兆円台半ばの追加予算が見込まれる少子化対策も同様だ。いずれも財源の確定は補選後の年末に先送りされているが、防衛増税や社会保険料への上乗せが必至であるのなら、その是非を問うのが正道ではないか。
政策課題だけではない。政府は世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の解散命令を請求する方針だが、自民と教団の関係にはいまだ疑念が残っている。「政治とカネ」問題も自民内では続発している。政治不信の解消に向けて首相らが何を語るかも、投票先を決めるに当たって基準になろう。
一方で、立民の泉健太代表は「地方経済を活性化できなかった」と岸田政権を批判。物価上昇を上回る賃上げ、少子化対策の関連で教育の無償化や介護従事者の待遇改善など「生活者を守る政治」への転換を掲げている。
とはいえ、財源を含めた実現の可能性が見えておらず、選挙戦で説得力ある訴えができなければ、支持は集まるまい。政権担当能力をアピールするには、現実的な防衛政策の提示も求められる。
首相が23年度補正予算案の臨時国会成立を優先させる意向であることから、衆院解散・総選挙は来年に持ち越される可能性が出てきた。だが、経済対策や防衛力強化、少子化対策の内容と財源は、次期衆院選でも審判を受けるべきテーマになる。今回の補選で与野党がどのような主張を展開するのか。対象選挙区外の有権者も注視したい。