かつて「オリンピック運動の優等生」と世界から評価されてきた日本の五輪への取り組みが、このところきしみを立てて揺らいでいる。1964年東京五輪、72年札幌、98年長野の両冬季五輪に続いて開催した2021年の東京五輪・パラリンピックは汚職、談合事件で汚された。
今度は30年冬季五輪・パラ開催を目指していた札幌市が30年大会の招致を断念し、34年以降の大会に目標を切り替えるという。東京大会での不祥事により機運が低下。欧州から有力候補都市が出てきたこともあり、今回は勝ち目がないと見ての撤退である。
招致断念に至るまでの経緯に不透明な点が多すぎる。札幌市は当初から30年大会開催地の最有力候補とみられていて、国際オリンピック委員会(IOC)は22年のうちに内定、今秋に正式決定するとの見通しがあった。
ところが、22年夏に東京大会の不祥事が相次いで発覚すると事態は一変。IOCは開催地選定を24年以降に先送りした。これを受けて、札幌市は22年末から招致機運を盛り上げる活動を休止。IOC、札幌市とも、日本国内での五輪批判の高まりを憂慮し、ほとぼりが冷めるまでの猶予期間を設けたともみられていた。
札幌市にとっては住民の開催支持率の低迷も痛手となった。昨年3月の1万人を対象にした市民アンケートでは「賛成」と「どちらかといえば賛成」が計52%で、わずかに半数を超えただけ。今年4月の市長選で秋元克広市長は3選されたが、招致反対の2候補に4割超の票が流れた。支持率を重視するIOCに影響を与えたはずだ。
水面下での動きは明らかではない。その後も密室でのやりとりが進展したもようだ。当初は名乗りも挙げていなかったスウェーデンやスイスなどが相次いで招致活動を開始。IOCが担ぎ出したとも評されるスウェーデンが、いつの間にか最有力候補にのし上がった。
IOCの開催地選定方法が透明性と公平性を欠くために、こうした複雑な動きが生じる。以前はIOC委員の投票で開催地を決めていた。今は複数の候補都市の中から理事会で最終候補を一本化し、総会で承認する手順だ。投票による選定は買収などの不祥事を生んだが、現行方式の舞台裏はさらに不明瞭だ。
巨額の利益を生む五輪を安定的に開催することは、IOCにとっての生命線だ。開催経験豊富な日本での3度目の冬季五輪実現はIOCも期待していたはずだ。しかし、日本国内で「五輪離れ」の兆候が目立つようになると同時に、IOCの「日本離れ」が始まった。
34年大会の再招致も先行きは険しい。ソルトレークシティー(米国)が既に有力候補の位置を固めている。招致費用もかさむだろうし、開催計画や膨張必至の運営費用の見直しも必須だ。
なによりも必要なのが、あらためて民意を聞くことだろう。五輪開催の是非を問う住民投票実施案は昨年、札幌市議会が否決した。それでもなお市民からは、住民投票を求める声が上がっている。欧米では、巨額の公金を投じる五輪招致は住民投票の結果を踏まえる例が多くなっている。
住民投票、あるいは規模の大きい市民意向調査を実施して賛成が多ければ再招致の原動力になるだろう。反対が上回れば潔く全面撤退すべきだ。












