アルバム「フューチャー・ショック」(左)と「ヘッド・ハンターズ」
アルバム「フューチャー・ショック」(左)と「ヘッド・ハンターズ」

 ジャズピアノ奏者ハービー・ハンコックは電化ジャズ路線を走っていた頃の曲が味わい深い。例えば「ロックイット」(1983年のアルバム「フューチャー・ショック」に収録)。レコードをキュッキュッと言わすDJのスクラッチを効果音に取り入れ、斬新な曲だった。ハービーのどや顔が浮かんでくるようだ。

 しつこいまでのキュッキュッ音に、ハービーのすかしたシンセサイザー、キューバの太鼓バタドラムの軽快な音、機械の声のようにエフェクトをかけたボコーダーボイスが加わる。今聴くと、古臭く、チープな感じがするが、そこも含めて味がある。バラエティー番組「踊る!さんま御殿!!」の視聴者体験談コーナーで流れ、今も聴く者の心をとらえる。

アルバム「フューチャー・ショック」

 「処女航海」(65年の同名アルバムに収録)「スピーク・ライク・ア・チャイルド」(68年の同名アルバムに収録)のように、しっとりと落ち着いた美しい曲も作ってはいる。しかし、これは、かりそめの姿。

 「ウオーターメロン・マン」(62年のアルバム「テイキン・オフ」に収録)のような泥臭い曲が持ち味かと思わせながら、これも、かりそめの姿だった。ちなみに、この曲は、もっさりとしたホーンのメロディーが繰り返され、癖になる。ハービーの軽やかなピアノがうまく引き立てている。

 本性を現したのは1970年代の電化路線突入後。電化版「ウオーターメロン・マン」(73年のアルバム「ヘッド・ハンターズ」に収録)はアフリカ音楽を注入した。冒頭から奇妙な笛の音としゃっくりのような奇声が続く。「何これ?」と戸惑わせておき、おもむろにおなじみのメロディーをちらっと奏でて安心させるのが憎い。エレクトリックピアノのきれいな音色と笛や奇声との対比も絶妙。

アルバム「ヘッド・ハンターズ」

 ジャズに影響を受けた癒やし系音楽バンド、ディープ・フォレストには、アフリカの民族の歌や雄たけびを取り込んだ曲があり、この「ウオーターメロン・マン」にも触発されたに違いない。ボコーダーボイスを使った曲もあり、ハービーへのオマージュかと思う。

 ハービーは、ボコーダーボイスをいち早く取り入れた。「アイ・ソート・イット・ワズ・ユー」(78年のアルバム「サンライト」に収録)という曲は、自ら声にエフェクトをかけて歌いまくる怪作。チャレンジ精神旺盛だ。歌が下手だと言われたのか、やりすぎだと気づいたか。「ロックイット」では控えめな使用にとどめ、もちろん、自分では歌っていない。
  (志)