ジャズピアノ奏者チック・コリアはスペイン音楽に傾倒し、曲に取り入れた。代表曲「スペイン」しかり。フラメンコギター奏者パコ・デ・ルシアにささげた「イエロー・ニンバス」「フラメンコ」しかり。「僕の心の故郷はスペインだ」と語っていたといい、スペイン愛あふれるアルバム「マイ・スパニッシュ・ハート」もよく知られる。

チック・コリア

 「スペイン」はチックが率いるフュージョンバンド、リターン・トゥ・フォーエバーの1973年のアルバム「ライト・アズ・ア・フェザー」に収録。スペインのロドリーゴ作曲「アランフェス協奏曲」の哀愁漂うメロディーでゆったりと始まり、フラメンコ風の速いリズムになる。エレクトリックピアノのコロコロした演奏が美しい。フローラ・プリムの歌声もいい。

 10分近い曲だが、98年発売のアルバム完全盤に5分半と短い別テイクがあり、お勧め。エキスがぎゅっと詰まっている。ピアノ、ベース、ドラムのアコースティック・バンドの演奏も89年のアルバム「スタンダーズ・アンド・モア」にあるが、あまり好きじゃない。

リターン・トゥ・フォーエバーのアルバム「ライト・アズ・ア・フェザー」

 「イエロー・ニンバス」は81年に東京でのライブ・アンダー・ザ・スカイでパコと共演し、互いにあおるように激しさを増す演奏がすごい。これに匹敵し、チックの熱い演奏が聴ける曲は「浪漫の騎士」(リターン・トゥ・フォーエバーの1976年の同名アルバムに収録)くらいだろう。

 ライブ・アンダー・ザ・スカイでの名演は子どもの頃、父がラジオ放送から録音したテープを聴かされ、思い出深い。スマホに移して聴いていたが、2021年発売の台湾製CDを最近知り、父の分と2枚買った(パコの「ライブ・イン・トーキョー1981」)。

 なお「イエロー・ニンバス」はスタジオ録音版が1982年のアルバム「タッチストーン」にあるが、熱意が足らず、別の曲かと思うくらい残念な代物だ。

アルバム「タップ・ステップ」

 「フラメンコ」は80年のアルバム「タップ・ステップ」に収録。「闘牛士のマンボ」風のホーンがいい。子どもの頃に父に聴かされたが、曲名がうろ覚えで90年代初めの大学時代、チックのCDを買いあさり、この曲に再会した時は、うれしかった。76年のアルバム「マイ・スパニッシュ・ハート」は「ラブ・キャッスル」「ウインド・ダンス」といったボーカル入りの曲がロマンチックで好きだ。

 電化ジャズ路線を進み、ボサノバやロックを取り入れたかと思えば、アコースティック・バンドを結成したり、クラシックに挑戦したりと多才だった。ただ、本領が発揮されるのはスペイン路線だった。晩年の2019年に原点回帰とも言えるアルバム「ザ・スパニッシュ・ハート・バンド」を残したのは感慨深い。やはり「心の故郷」なのだ。
  (志)