フランスの音楽プロジェクト、ディープ・フォレストはシンセサイザーやドラムのダンスビートに世界の民族音楽の歌唱や自然の音をちりばめる。代表曲「ディープ・フォレスト」(1992年のアルバム「アフリカン・コーリング」に収録)は、アフリカの小柄な民族の歌声や雄たけびを取り入れ、注目された。重低音のビートが相まって力強さを感じさせる曲だ。
1990年にグレゴリオ聖歌を取り込んでヒット曲を生んだドイツのエニグマと並び、伝統的な音楽とダンスビートを掛け合わせた癒やし系音楽の代表格。民族音楽の歌唱を前面に出すのが特徴だ。ディープ・フォレストに刺激されたのか、エニグマは93年に台湾の少数民族の歌を素材にまたもヒット曲を放った。

南仏のロマ民族(ジプシー)の音楽に根を張るジプシーキングスの人気など、80年代後半以降のワールドミュージックへの関心の高まりも背景にあったろう。
ディープ・フォレストもボヘミアンと呼ばれる東欧のロマ民族に着目し「ボヘミアン・バレエ」(1995年のアルバム「ボエム」に収録)にその舞曲を取り込んだ。雰囲気たっぷりの歌と手拍子をビートが盛り上げる。同じアルバムの曲「カフェ・ヨーロッパ」はハンガリーの打弦楽器ツィンバロンの音色が聴ける。弦をばちでたたく楽器で、ピアノと琴の中間のような音色だ。

98年のアルバム「コンパルサ」は中南米の音楽に目を向けつつ、随所にジャズへの敬慕が見て取れるのが興味深い。ディープ・フォレストのメンバー2人は、若い頃の70年代後半~80年代前半にジャズバンド、ウェザーリポートに多大な影響を受けたらしい。
ウェザーリポートにささげた曲「1716」はそのシンセサイザー奏者ジョー・ザビヌルのピロピロした演奏を模倣している。続く曲「ディープ・ウェザー」にはザビヌルがゲスト参加し、アコーディオンを弾く。貴重な演奏だ。
収録曲「ラジオ・ベリーズ」は中米の軽やかなギターと、機械の声のようにエフェクトをかけたボコーダーボイスとの組み合わせが面白い。ボコーダーボイスは、70年代後半にジャズピアノ奏者ハービー・ハンコックがいち早く取り入れ、異色作を放った。これも若い頃のディープ・フォレストの2人を引きつけたのだろうか。「人間の歌声の美しさ」を掲げる原点になったかと想像が膨らむ。(志)