「エモい」とは、感情が揺さぶられ、なんとも言えない気持ちになることを指す。エモーショナル(感情)から派生した言葉だろう。最近の若者がよく使う。だが、ルーツは1990年代にあると言いたい。ウィーザーがいるからだ。
米国の4人組バンド。ファースト「ウィーザー」(94年)、セカンド「ピンカートン」(96年)の2枚のアルバムは、最高にエモいと言っていい。フロントマンのリヴァース・クオモがギターをかきむしり、さえない日常にもだえる姿が全編に収められている。
セカンド収録の「アクロス・ザ・シー」では、日本の18歳女性から届いたファンレターの匂いをかぎ、果ては便箋をなめ「なんで遠い海の向こうに君はいるんだ」と地(じ)団(だん)駄(だ)を踏む。「タイアード・オブ・セックス」では「なんで僕は本当の愛を見つけられないんだ」と泣きじゃくる。
どの曲も哀愁を爆音で表現しながら「なんで、なんで…」のオンパレード。その思いは、忘れられたポストに投函(とうかん)され続ける手紙のようで、誰にも届かないもどかしさをはらんでいる。
ファーストのジャケットを見てほしい。ロックスター然としない普通の若者が並んでいる。「ここに立っているのは自分だ」と、10代の頃、聞きながらいつも思っていた。(銭)