建て替え工事が進む松江市役所本庁舎=松江市末次町
建て替え工事が進む松江市役所本庁舎=松江市末次町

 松江市役所本庁舎(松江市末次町)の建て替え事業の見直しを求め、市に住民投票条例の制定を直接請求した市民団体が2020年11月に開いた市民集会。代表を務めた島根大の片岡佳美教授は「自分の口で市政に意見を言ってもいいのだと示せた」と、団体解散に当たって約4カ月の活動の意義を総括した。

 市民団体は20年5月、多くの市民が新型コロナウイルスの影響を受ける傍らで巨額の事業が進むことに違和感を覚えた市内の大学教授や子育て中の女性らが結成した。

 7月に着工延期の是非を問う住民投票の実現を目指して署名活動を始めると、支援者は600人以上に倍増。ホームページにも応援の書き込みが相次ぎ、署名は直接請求の必要数(約3400人)の4倍超となる1万4千人分が集まった。

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 市民団体が問題視したのは事業計画の決め方だった。総額150億円の事業費や現地建て替えといった計画内容に、市民の意見が十分に反映されていないと指摘。実際、市は市民が直接意見を表明できる機会を設けておらず、移転新築した場合とのコスト比較を示したのは市議会で住民投票条例の制定案が否決された1週間後だった。

 こうした対応は、市執行部と市議会最大会派があうんの呼吸で進める行政手法によって生まれた。

 松浦正敬市長が現地建て替えを表明したのは2015年。それ以降、市執行部はほぼ半数の議員が所属する最大会派・松政クラブの幹部から了解を得られたことを盾に、ほかの市議の指摘に耳を貸さない傾向を強めた。

 特に市民団体の活動が本格化した20年夏以降は、市幹部が「反対する人に説明しても収拾がつかない」と本音を漏らすようになった。松浦市長は市民団体の直接請求を指して「ある意味、権利の乱用ではないか」と記者団に言い、市の閉鎖的な体質を浮き彫りにした。

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 20年10月の市議会本会議で住民投票条例の制定案に賛成したのは議長を除く議員33人のうち4人にとどまった。しかし、市民の間で賛否の議論が湧き起こり、建て替え事業を自分事として捉える市民は確実に増えた。一連の活動は市の政策決定の在り方に一石を投じた。

 地方自治に詳しい静岡大の恒川隆生名誉教授=行政法=は「市民が主体となって声を上げ、行政がその意見をくみ取るのが地方自治のあるべき姿だ」と指摘。重要施策に対する市民の合意形成に向けた新たな仕組みづくりの必要性を説く。

 今後、市民の間に芽吹いた市政参画の機運をどのように政策に反映させていくのか。その先に新たな県都の姿がある。

  =おわり=
  (この企画は政経部・久保田康之、佐々木一全、月森かな子が担当しました)