米国のバイデン大統領はロシアのプーチン大統領との初会談で、核軍縮やリスク軽減措置を話し合う戦略的安定対話の創設で合意した。一時帰国させている相互の大使の復帰も決めた。「冷戦後最悪」と言われた米ロ関係の好転が期待される。

 世界の平和と安定のためには核大国である米国とロシアの関係改善は欠かせない。中距離核戦力(INF)廃棄条約が2019年に失効し、両国とも核戦力の増強に動いており憂慮すべき事態だ。新戦略兵器削減条約(新START)も5年後に失効する。

 「核戦争に勝者はなく、決して行われてはならない」と両大統領は合意したという。その通りなのだから、対話を進め、新START後の停滞を打破して大胆な核兵器の削減を実現してほしい。

 米ロ間の戦略的安定対話は「最小限の合意」である。真の安定を考えるなら核ミサイルも含めて軍事力の増強が著しい中国の参加は欠かせないからだ。中国は戦力の差が大きすぎるとして対話への参加を拒んでいる。中国を説得できるかどうかが、米ロ協調の試金石となる。

 米ロ間は課題が多い。ロシアによるクリミア半島の併合や米大統領選への干渉疑惑で関係は決定的に悪化し、その後もロシアは反体制派を拘束するなど強権体質を強め、ロシアからとみられるサイバー攻撃も頻発している。これらは、世界への関与を低下させた米国の「弱さ」も一因となっていそうだ。

 「米国は(国際社会に)戻ってきた」と繰り返すバイデン氏は米ロ首脳会談の前に行われた先進7カ国首脳会議(G7サミット)や北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で、国際協調主義の復活を宣言し、同盟立て直しの議論を主導した。

 米大統領が、自国第一主義で予測不能のトランプ氏からバイデン氏に代わったことで世界には安心感が生まれている。米国の指導力復活を歓迎したい。

 バイデン氏の対ロ関係改善や同盟立て直しの狙いは、「最大の課題」という中国を見据えた上でのものだ。

 G7首脳声明は「台湾海峡の平和と安定の重要性」を明記し、新疆ウイグル自治区での人権や香港の「高度な自治」の尊重を要求した。米国の意向を受けて「専制主義」対「民主主義」の構図を描いた。4月の日米首脳会談に続いてバイデン氏は民主主義陣営の結束に成功したと言える。

 問題はこれからだ。人権や政治体制を非難し制裁をかけるだけで、ロシアや中国がこうした政策を変えるとは期待できない。具体的な合意を導く対話が必要だ。

 ロシアとは核軍縮交渉、中国とは温暖化問題などで進展を実現できずに対立がエスカレートするばかりとなれば、G7の足並みも乱れそうだ。日本も含めてG7各国のロシアや中国との関係は米国とはもともと異なる。

 米国政界では民主主義的な価値を否定するトランプ派が依然力を持ち、野党共和党は来年秋の中間選挙、24年の大統領選挙をにらんでいる。

 バイデン氏の支持が盤石でなければ、ロシアや中国は重要な合意を結ぼうとはしないだろうし、むしろけん制を強めるはずだ。日欧も米国の指導力を疑う。順調にスタートした感のあるバイデン外交だが、真の成果には程遠い。