短歌 安部 歌子選

過疎なればウオーキングも影ひとつ空き家の柚子を一ついただく  邑 南 松島 道幸

  【評】過疎の地をウオーキングしているのは作者一人。「影ひとつ」に工夫がある。

 柚子(ゆず)をとっても咎(とが)める者もいない。下句のさりげない作者の行動が過疎の地の静かさをより強調した。

在りし日の母のためにと付けやりし手摺りが今や我に役立つ    出 雲 行長 好友

  【評】母のために手すりをつけた時には、やがて自分に役立つ日がくることなど考えてもいなかった。今その身になって、晩年の母の寂しさも思いやる作者。誰...