3日に静岡県熱海市で起きた土石流は、家屋の倒壊や安否不明者を多数出すなど甚大な被害をもたらした。山陰両県でも7日未明から大雨となり、予断を許さない状況が続いている。特に島根県内には土石流警戒区域が約3万2千カ所あり、対岸の火事ではない。土石流が起こる仕組みや注意点について、専門家に模型を使って分かりやすく解説してもらった。
藤井基礎設計事務所の藤井俊逸社長(60)は、技術者や専門家が土木技術を学問として研究する、公益社団法人土木学会(東京都新宿区)の斜面工学研究小委員会副委員長を務め、斜面力学に詳しい。全国の学校などで開かれる防災学習の講師も担当し、自作の模型や動画を使って土砂災害への注意喚起をしている。
▼土石流発生はすべり台の要領
藤井社長は一般的に土石流とは「山肌の土が崩れて谷底にたまったものが大雨によって泥状になり、流れ出たもの」と話す。図を使って説明する。

山というのは硬い地盤の上に柔らかい地層が積み重なったもの。標高が低い所では地層が薄く、上に行くほど重なる地層(図の黄色部分)が厚くなる。
雨が降ると、柔らかい地層部分に水が染み込んでいく。地層の表面に降る雨だけでなく、山のさらに上から表面を流れてくる地表水、上方の土から地中に染み込んで伝ってくる地下水も加わる。地層に大量の水が染み込むと浮力で地層が地盤から浮き上がり、標高が低い方へ流れ出てしまう。
土石流が発生する仕組みを、実際に模型を使った動画で確認してみよう。
通常はびくともしない山の地層が、雨水で流出してしまうというのは驚きだ。藤井社長はより分かりやすく解説するため、地層が流出する仕組みについて、すべり台を例にした。

▼盛り土が土石流に与える影響
熱海市の土石流については、開発行為で出た土を集めた「盛り土」が崩落地点にあったことが、被害拡大の要因ではないかと有識者に指摘されている。藤井社長も「(土石流は)流れる物が重いほど流れる速さが増し、壊す力が大きくなる。今回は盛り土と地層が一緒に崩れたことで、より大きな土石流となったのでは」と推測する。


大雨で通常の地層が崩れた場合と、盛り土と一緒に崩れた場合とで土石流の威力がどれほど違うか、別の模型で再現してもらった。
盛り土による土石流の速さと破壊力の違いは一目瞭然。これが本物の土石流、本物の家だったらと思うとぞっとする。ただ、通常は盛り土が崩れないよう、浸透する地下水を外に排出する処理がなされている。藤井社長によると、山陰にも高速道路など各地に盛り土があるが、全てが危険というわけではない。
▼ハザードマップ確認の徹底を
山陰両県では、積乱雲が連続発生する「線状降水帯」が形成された影響で大雨となり、一部では小規模な土石流も発生している。被害に遭わないために、われわれ住民には何ができるだろうか。
(藤井社長)「まずはハザードマップを見て、避難経路や、自宅が警戒区域に含まれていないかを確認してほしい。有事の際は、とにかく早く避難すること。強い雨が降ってからでは避難もままならず、遅い。もうすぐ大雨が降るという予報を聞いた時点で避難して」。
土石流の仕組みとその危険性。行政の呼び掛けや各メディアの報道によりなんとなく知ったつもりでいても、実際はなかなか当事者意識を持てないもの。耳だけでなく目で土石流を知ることで、有事に備えてもらいたい。