ししゃもをいつもより1匹増やし、チーズを追加、ご飯は減らす―。今日の食事は人工知能(AI)がお薦めしたメニュー。高めの血圧を10下げるため、AIが個人の健康データに基づいて導き出した。健康や美容、スポーツ記録の向上などの目標達成に向け、個人に最適化した食事を提案する試みが進む。メニューはAIに任せる時代が来るのだろうか。
信州大発のベンチャー企業ウェルナス(東京)は「自己実現のために設計された個人最適食」をテーマに新しい食の形を研究している。
実証実験では、最初の3週間、毎日の食事メニューを記録し、血圧などの健康データも同時に計測。栄養素と血圧の関係をAIで解析し、血圧を10下げる目標を設定して食生活を見直した。
解析結果から、血圧を上げる要因となる栄養素は炭水化物とビタミンB1の可能性が高いことが判明。逆に血圧を下げるのはタンパク質やカルシウムで食塩は影響していなかった。
AIは、1日3食の中で炭水化物を28グラム減らし、タンパク質を10グラム増やすと血圧を下げる効果があると分析した。通常の食事内容とカロリーを大きく変えない範囲でAIが提案したメニューは「ししゃもを2匹から3匹に増やし、チーズ1個とアーモンドフィッシュ1袋を追加。白米と切り干し大根を3分の2に減らす」だった。
13人に同じ調査を実施したが、血圧の数値に関係する栄養素は全員がばらばらで効果が出た食事の内容も別々だった。
同社の小山正浩社長は幼い頃から高血圧で睡眠障害などに苦しんできた経験から多くの薬や食品を試してきた。「どの食べ物がどのように体に影響するかは個人によって異なる。詳細に調べれば個人に最適なメニューを提案できる」と話す。
職人の技が生かされる料理の世界にもAIが次々と進出している。米IBMは食材や料理のテーマなどを指定するとレシピを提案してくれる「シェフ・ワトソン」を開発。日本でもAIが利用者の好みを解析して好きなおやつを届けるサービスや、がんを予防するための食生活を提案するAIの研究も進む。
ウェルナスの技術を開発した信州大の中村浩蔵准教授は「将来、肌をきれいにしたい人や運動の記録を向上させたい選手など食べる人の健康状態や目的に合わせた食事をAIで提供していきたい」と話した。