タイブレークの末、早実にサヨナラ勝ちし、応援席へ駆け出す大社ナイン=17日、甲子園
タイブレークの末、早実にサヨナラ勝ちし、応援席へ駆け出す大社ナイン=17日、甲子園

 夏の甲子園は終わったが、島根代表の大社高校ナインが巻き起こした「旋風」は、意外なところにも広がっていたようだ。

 19日午後5時。生放送のテレビ番組が始まって間もなく、タレントのマツコ・デラックスさんが、こう切り出したという。「皆さんも甲子園、見た方がいいですよ」―

 この時間、準々決勝が行われていた甲子園では、大社が神村学園(鹿児島)と対戦中。五回を終え、2-3と互角の戦いを繰り広げていた。

完投で早実を破った大社・馬庭優太投手=17日


 「大接戦ですから」「何かすごいね、普通の公立校が…」。名前は出さずとも、大社のことを指していたのは明らか。さらに「江の川(現石見智翠館)以来よ。島根旋風は」と絶賛した。

 かなりの高校野球通と見た。江の川が夏の甲子園で旋風を巻き起こしたのが2003年。2回戦から登場すると、中越(新潟)を2―0、3回戦は沖縄尚学を1―0、続く準々決勝は聖望学園(埼玉)を2―1で撃破。準決勝では、現在大リーグ・パドレスで活躍するダルビッシュ有投手が2年生だった東北(宮城)を相手に中盤まで互角に渡り合ったが、最後は1―6で力尽きた。

 当時、江の川の準々決勝と準決勝を甲子園で取材した。左腕・木野下優投手を中心に堅い守りで接戦を勝ち上がり、島根勢80年ぶりの4強入りを果たした。

沖縄尚学を完封した江の川・木野下優投手=2003年8月19日


 今夏の大社も左腕・馬庭優太投手を中心に堅い守りと機動力を駆使し、島根勢では江の川以来、21年ぶりの「夏3勝」をマークした。

 大社の勝ち上がりは▽1回戦3-1報徳学園(兵庫)▽2回戦5-4創成館(長崎)▽3回戦3-2早稲田実業(西東京)―の順。偶然だろうか。得点こそ異なるものの、勝ちゲームの得点差は、江の川と全く同じだった。

 現在は江の川から校名が変わった石見智翠館と大社は、今夏の島根大会決勝で相まみえた間柄。3年前の決勝は、石見智翠館のエースがノーヒットノーランの快投で大社を下し、甲子園では8強入りを飾った。

 しばらくはこの2チームが島根の高校野球をけん引するのか。あるいは他のチームが割って入るのか。

 「今年もまた島根旋風が吹いてるわよ」。マツコさんのそんな声が聞きたい。

 (論説委員長・松村健次)