今野晴貴氏
今野晴貴氏

 新型コロナウイルス感染拡大の影響で、休業やシフト減、あるいは解雇された労働者の問題がクローズアップされる一方で、逆に長時間労働を強いられている労働者も少なくない。

 中央省庁では、昨年12月から今年2月の3カ月間に、月80時間を超える残業をした国家公務員が6532人に上った。民間で労働時間が延びたのは、生活に必須の業務を担う「エッセンシャルワーカー」たちだ。

 保育園では、コロナの感染対策を講じるために、残業が増えたケースがみられる。

 ある保育園では、感染対策のため、保育士が保育年齢をまたいで子どもや保護者と接触しないよう勤務シフトを変更した。これまでは、子どもを早朝に預けに来たり、遅い時間に迎えに来たりする保護者に、保育年齢の枠を超えて対応していたが、それができなくなったため、毎日2時間残業するようになった。だが、その残業代は支払われていない。

 コロナ対策の給付金の問い合わせに対応するコールセンターの業務も必須だ。だが、度重なる制度変更に伴い、クレームも多いうえ、業務の性質上、3密(密閉、密集、密接)にもなりやすい。同業界からは、コロナ禍の当初から「窓の開かない高層ビルに多くの人が集められ、ヘッドセットやキーボードを共有している」という相談が全国からNPO法人「POSSE」に寄せられた。感染への恐怖から離職者も多く、残された労働者の業務がさらに過酷になる悪循環に陥っている。

 IT業界もコロナ禍に伴う需要増で長時間労働が発生したが、残業代も支払われていないという相談が多い。テレワークに伴って、労働時間が延びるケースもある。

 例えば、ITサービスの営業を担当する正社員の女性は、昨年入社した当初からテレワークが導入されていたが、土日も仕事の連絡が入るようになり、平日も朝6時から午後10時まで勤務している。同僚には月200時間も残業している人がいるという。東京の本社がテレワークに移行したため、その分の仕事が地方の支社にまわってきたという相談もあった。

 さらに、IT業界では以前から裁量労働制が、長時間労働や残業代未払いの「法の抜け道」になることが問題となっていたが、テレワークに伴って裁量労働制の活用が加速しており、ますます問題が深刻化している。

 保育園のシフト変更や、テレワークの導入は感染対策の観点からは望ましい。しかし、それに伴って労働時間が延長されたり、残業代の不払いが横行したりすることがあってはならない。

 感染の危険を伴う過重労働が、待遇の低い非正規雇用労働者に押し付けられている構図も見逃せない。先に紹介したコールセンター業務を担当しているのは、ほとんどが派遣労働者だ。

 外出自粛やテレワークの広がりで「巣ごもり需要」が生まれたスーパーやコンビニなどでも、現場対応しているのは非正規雇用だ。ある契約社員の女性は普段、店頭で販売を担当する部署ではないが、頻繁にヘルプに行くことを命じられるようになり、休日出勤も余儀なくされている。販売業務は感染リスクもあるが、契約社員という立場は弱く、何の補償もない。

 正社員にはテレワークを認めるが、非正規雇用には認めないという差別的対応の訴えも後を絶たない。非正規雇用だけが出勤を命じられ、郵便物の開封などの必須業務を割り当てられているというケースのほか、テレワークをしたいと要求したことで解雇された派遣労働者もいた。

 学校現場にも過重労働が生まれている。中学、高校では公立、私学共に非正規教員が増えているが、部活動を担当することでプレッシャーを感じている非正規教員は多い。正規教員に採用されるには、部活担当の評価も重要だからだ。

 都立高校では、部活がある日は他業務との兼ね合いで午後10時まで残業せざるを得ない教員もおり、1日3千円の特殊勤務手当では労働実態と待遇面が見合っていない。

 感染リスクを抱える中での必須業務について、立場の弱い非正規雇用に業務が押し付けられることのないよう、労働組合や行政が適切に対応していくことが求められている。