人手不足を背景に、山陰両県の小売店で従業員の身だしなみのルールを見直す動きが出ている。これまで規制を設けてきた服装をはじめ、髪形や着用するアクセサリーなどの基準を緩和。採用の間口を広げて、人材確保につなげるのが狙いだ。
島根県西部を中心にスーパー24店を展開するキヌヤ(益田市常盤町)は11月、パートやアルバイトを含む全従業員約890人の身だしなみ基準を改めた。従来、内規で「髪の色は自然な色や暗い色」と定めていたのを原則自由にしたほか、禁止していたマニキュアは短い爪で色が剥がれなければ可能とし、ひげも緩和対象にした。店頭には身だしなみの基準改定を消費者に周知するポスターを掲示した。
人事総務部の水野哲也部長は「自由といっても、お客さまに不快感や威圧感は与えないようにする」と説明。その上で「従業員が気持ちよく仕事できる環境づくりを進めつつ、少しでもハードルを下げて人材を採用したい」と話した。
就職情報会社マイナビの全国企業アンケート(2023年)で、アルバイトの服装などについて、全回答887件のうち「直近5年間で緩和した」が37%を占めた。業種別では製造が48%、鉄道や海運などのインフラが44%、建設が43%だった一方、小売りは最低の28%。消費者とじかに接する機会が多い小売りは、緩和しにくい面がある。
ただ島根県内の小売店などの販売従事者の10月の求人倍率は2・74倍で、全業種平均の1・43倍を大きく上回る。人手不足感が強く、採用拡大が小売り各社の課題だ。ジェンダーフリーや多様性の受容が重視されるようになった時代の変化も各社が緩和に踏み切る遠因とみられる。
スーパーのイオンが髪の色を自由とし、以前は結婚指輪だけだったアクセサリーを華美なものを除いて着用可能とするなど大手も動きを推し進める。
鳥取県中部を中心にスーパー8店を構える東宝企業(倉吉市大正町)は、黒か自然の色としていた髪の色や禁止だったアクセサリーを、「不快感を与えない範囲」で可能とするなど、自由度を高めた。地方の同業社などの取り組みを参考に、働きやすい環境づくりを目指したという。
ルール緩和の効果について業務部の担当者は「求職者数が増えたわけではない。ただ、年末年始やお盆の短期勤務の募集時に人を集めやすくなった」と説明。消費者からのクレームなどはないという。(井上雅子)