絵本「きせきのやしのみ」
絵本「きせきのやしのみ」

 太平洋戦争末期、戦死した出雲市出身の男性がフィリピンの海に放ったヤシの実が、故郷に流れ着いた「奇跡の椰子(やし)の実」。この実話に感動した愛知県の主婦が絵本を作成し、島根県内の学校などに贈り始めた。父の故郷・島根で起きた出来事に心を動かされ、出雲弁保存会の協力で方言も入れた。戦後76年で伝承が難しくなる中、子どもたちが戦争を知る契機になればと願う。

 作ったのは、愛知県一宮市の亀山永子さん(48)。地域の小学校などで読み聞かせボランティアに携わり、独学の切り絵を生かし「よこいしょういちさん」など戦争に関する絵本2冊を既に手掛けた。

 実話は、フィリピンで戦死した出雲市出身の山之内辰四郎さんが、亡くなる前に戦友の名を記して流したヤシの実が31年後に出雲市大社町の漁港に漂着し、妻の元に返る。

 2019年3月、靖国神社敷地内の遊就館(東京・九段北)で実話を知り、自身ともゆかりのある島根の話に心引かれ、不思議さと山之内さんの無念さを感じた。読み聞かせで戦争の悲惨さを知ってもらおうと絵本作成を決意し、県内に足を運んで取材した。

 絵本「きせきのやしのみ」はA4横判で40ページ。幼少期、祖母から聞いて好きだった出雲弁も盛り込み臨場感を出した。

 親として家族の尊さを感じる中、故郷や家族を思って戦地で亡くなった日本兵がいたことにも触れ「一人一人に帰りたかった故郷があり、待っている家族がありました」などとつづる。

 父の故郷・雲南市と出雲市の教育委員会を通じ全小中学校に計71冊を寄贈。28日には亀山さんに代わり、出雲弁保存会の藤岡大拙会長が出雲中央図書館に7冊を贈った。

 亀山さんは「学校で深く戦争を教えられる訳ではなく、関心を持たないと知りたいとはならない。不思議な物語に興味を持ってもらえれば」と願った。

      (松本直也)