島根県隠岐の島町布施の民宿に、44年前から毎年欠かさず訪れる大阪のリピーター客がいる。今年は4回も訪れたといい、民宿経営者は「ここまで頻繁に来る客は隠岐の中でも他にいない」とし、今や家族同様の付き合いとなっている。
隠岐に足しげく通うのは東大阪市の石川治さん(77)。1980年夏に同町布施の民宿砂川に初めて訪れた。趣味が磯釣りで、釣り仲間と一緒に訪れて周辺の磯で夜にマダイ釣りを楽しんだ。
当時は離島ブームの名残があり、近くのユースホステルに多くの若者が集まり、今は静かな民宿前の通りは「銀座通り」と呼ばれるほどにぎわっていた。
民宿で出される海鮮料理が気に入り「関西に比べて物が違う。値打ちがある」と、はるばる来る価値があるという。「田植えから稲刈りの時期まで来ていた。ここに来ると電話がかかってこなくなるのが幸せ」と仕事を忘れるため、多い時には年に10回訪れることもあった。
72歳で仕事を引退し、仲間も年を取ったため、この10年は1人で車を片道300キロあまり運転して来ている。「魚釣りをしなくても落ち着く。もう家族ですわ」と笑顔を見せた。
民宿を経営する砂川博保さん(76)は「町は『訪れて良し』のまちづくりを目指している。石川さんのような人が増えるといい」と話した。(鎌田剛)